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[コメント] 華氏911(2004/米)

Smoke Marlboro,After Lucky Strike.
町田

俺が思うこの映画最大の功績とは、”ドキュメンタリ映画”なるものに本来的に備わっている恣意性を、より広く多くの映画ファン=市民に納得・(再)確認させたこと、に尽きる。

「ドキュメンタリやジャーナリズムは本来恣意的なもの」という標語は、いまや常識、一般論として多くの人に認識され始めている。

ムーアの前作『ボウリング〜』が公開されたばかりの頃には、雑誌やこのシネスケでも散見された「公平性に欠く」「独善的な解釈」「事実の誇張」などというドキュメンタリ評は、本作の公開を機に一掃された感があり、俺はそれが自分のことのように嬉しい。

しかし、それでもまだこういうことを云う人々が居る。それも鬼の首でもとったかのように「ムーアがやっていることはブッシュがやっていることと本質的には同じではないか!」。

日テレなんかのワイドショーでは頻繁に聞くことが出来る戯言である。 俺は云う。

そうだ、同じだよ。同じで何故、いけないのだ。100万の壇上、10億のお茶の間に立ち、平気な顔で人を欺いているお偉い方と対抗するために、一映画人が、一作家が、独自のメディアを駆使して自身の意見を訴えることに、一体、どういう問題があるというのだ。それが機会の均等というものだろう。”誤った情報を鵜呑みにする人が出ることが懸念される”だ?嘘を付け。そんな道徳論なんかクソだ。自分に都合の悪いときばかり一般論や道徳論を持ち出して相手を非難するヤツなんてのはみんなハラワタの腐った偽善者だ!

さて、次に俺が云いたいことは、この映画は確かに反ブッシュ政権プロバガンダであるけれども、必ずしもケリー民主党支持映画ではないということだ。

保守派の人間(*1)、と此処には俺の最も信頼する法学院生の友人も含まれるのだが、が良く使うロジックに「だってXXXじゃ仕方ないだろう?」というのがある。小泉政権や暴走する自民党に批判を加えると、彼らはきまって大人びた表情をして「だって民主党じゃ仕方ないだろう?あんなモンに投票してどうすんの?」と、こういう風に諭してくれる。

シネスケで他の方のコメントについてとやかく言うこと、戦争や政治に纏わる議論することは、今では御法度とされているようだが、やはり敢えて云わせて貰おう、「この映画を支持するからといって、それは米民主党、或いはケリー大統領候補を支持する、ということでは全くない」ということを。もっと云えば、前回の選挙で岡田民主党に投票したからと云って、その人が民主党を本気で支持しているわけでは必ずしもないし、或いは民主党自体には一片の期待すら抱いていないこともありうるのだ。。

最期に、映画『華氏911』について。面白かった。それはブラックジョークの面白さというよりも、流れるような構成の妙だ。前作のように他人にものを云わせてるわけではない(←ここが重要)から、論旨もハッキリ・スッキリしている。重く暗い部分もあるので、好き嫌いは分かれるだろうが、映画としては前作より格段に上だと思う。かと云って映画祭で最高の名誉に輝くほどの出来とも思えないのだが、カンヌは元々、左好みだし、『ボウリング〜』と合わせてって考えれば納得出来ないことも無い。ムーアには期待している。次回作も楽しみにしている。

いま、俺が願っていることはペンクロフさんと全く同じだ。地獄のような、とは敢えていわない。俺は直接的には何の被害も受けていないのだから。だからこう云う。この馬鹿らしく、欺瞞に満ちたイラつく4年間(*3)を、もう一度繰り返さずに済みますように!

*1・・・並々ならぬ努力を自らに強いてきた法曹や投資家と云った人々が制度や経済の安定を求めて保守政権に支持を表明することは、悪いことでもなんでもない、遠くのイラク人より自分の家族、一億の理想より自分の夢、むしろそれが自然、人間ってもんだからだ。しかし、それならもっとハッキリそれを云うべきだ。それを云って白い目で見られても、肩身の狭い思いをしても、それが自分の信念だったら胸を張って云えばいいじゃないか。それを小手先の道徳論や技術論(*2)に摩り替えちまう、その姿勢がセコくて情けない。

*2・・・ゴダールの焼餅発言は可愛げがあって好きだ。自分がそう云えば逆さに採られて広告に使われちまうことくらい判っていながら、それでも云っちまうところがちょっと立川談志的だ。

*3・・・これがブッシュ落選を願うプロバガンダ作品であることは、同時に、ムーアがあくまで普通選挙で平和的に念願を達成しようとしていることのあらわれでもある。過去の共産主義者がそうしたように、暗殺を教唆しているわけでも、革命蜂起を煽動しているわけでもない。(テロリストを非難する映画でもあるので当然と云えば当然なのだが)そういうところに、平和主義者ムーアの一貫性を垣間見るのだ。

(評価:★4)

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