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[コメント] 武蔵野夫人(1951/日)

武蔵野からトトロが減って行った理由。
町田

「貞節」を重んじる田中絹代とそんな彼女の古風な女らしさに惹かれる若い片岡。自由主義の名のもと「姦通」の正当性を説く似非インテリ森雅之と、それに同調したかに見せるモダンガール(?)轟夕紀子

物語は、「貞節」を重んじるはずの二人が不倫の落とし穴に落ちる一方で、「姦通」の正当性を主張していたはずの二人が嫉妬したり実は鬱積していたりする様子を皮肉一杯に描き切ったところで一端完結します。

この均衡を突き破るのが、夫の冷たさに密かに欲求不満を募らせていた轟の「爆発」であるのですが、彼女は前半非常に爽やかで物分りのいい友人を演じていたので、僕などにはアレは些か唐突に思えました。しかし、轟の演技自体に着目した時、彼女が演じた婦人は、非常にモダンで魅力的でリアルな存在感があり、主演の絹代を喰ってしまっているくらいでしたから、僕は彼女を責める気にはならないのです。

そこで阿佐ヶ谷の特集のパンフを観てみると「完成後、絹代はミスキャストと言われた」とあり、僕はこれに同意せざるをえない。主人公が絹代であり、轟の旦那が山村聰である必然性が、僕にも全く見えて来なかった。武蔵野を愛し家名の存続に命を捧げる女性の情念も、家庭を顧みない実業家の狡さも、画面からは殆ど伝わってこなかった。

いや、山村や轟は脇役だからまだいい。しかし絹代の演じた主人公がステレオタイプ過ぎ血の通った感じがしなかったはやはり大きな問題と思う。そこで、僕は、天下の溝口健二監督に対し、恐れ多くもこういってしまいたい、「これは貴方のミスですよ」と。

第一、森雅之に吐かせた戦争論など政治色が強すぎるし、ラストシーンで「武蔵野の森と新興住宅の境界」に託したメッセージが、宮崎駿程ではないけれど、監督にしては安易で直接的過ぎるという気がしました。

しかしながら話自体は、ベストセラーということもあって、大変面白く、溝口の弟子(?)増村保造監督が若尾文子と撮り上げた一連の作品に通じるものがある。なんていうことを考えると、是非このハナシは増村・若尾に音楽・林光か真鍋理一郎辺りで見たかったなぁ、などと思うのでした。

玉井正夫さんの撮影悪くはないんですが、天才宮川一夫とは比べるまでもない出来映え。

(評価:★3)

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