コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 目撃(1997/米)

ミステリに非ず、古き良き時代を偲ぶナンセンス喜劇である。イーストウッドにスティーブ・マーティンを起用する度胸があったら傑作になったかも。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







作品を見終わって「まぁ80年代の作品だし、しゃあないわな、イーストウッドでも」、とか思っていたら、ここに来て驚いた。なんと’97年の作品である。

同じ年に『LA・コンフィデンシャル』が撮られている。『ユージュアル・サスペクツ』『セブン』から二年も経過している。いやいや、そんな生易しいもんじゃない。俺にはこれが『ダイハード』(’88年)以後の作品、というのが正直、信じられないくらいだ。

荒唐無稽な話である。粗を探せばキリがない。というか粗じゃない部分が皆無だ。そんなことは犯人らがナイフを落としていった時点で一目瞭然だ。

それでも良いんだ・・・。構わなかったんだ・・・。俺にとってのイーストウッドは、ハッキリ云いたいことを云える人、怒りそして、全てを許してしまえる男の中の男、ヒッチやクルーゾーみたく巧緻なミステリ・テリングなど、ハナから期待していなかったのだから(*1)・・・。

そう、俺は待っていた。ずっと待っていたのだ。彼の怒りを。魂と肉体を切り裂くようなジレンマの来訪を。そして、そこから踏み出される一歩を・・・。

が、それらは皆、やって来なかった。

描かれるのは、ただ家族の絆の再生のみ。確かにそれはイーストウッドが繰り返し描いている重要テーマの一つだ。だが、本作に於いては、予め修復されることの約束された映画に花を添えるためだけの断絶、というような酷く嘘臭いものとしか感じられなかった(*2)

俺は、この映画を池袋新文芸座のイーストウッド監督特集で観たのだが、娘の自宅の冷蔵庫に食料品が買い足されていたシーン(と続く幾つかの名台詞)で、客席から乾いた笑いが起こった。確かに、ここの面白さ、痛快さはホンモノだった。

だから俺は、この映画は、古き良き時代を偲ぶイーストウッドが、余興で作った、ナンセンス喜劇(*3)なのだ、と思うことにする。

そして、それにしては少々長過ぎただけのだ、と。

***************************

*1・・・イーストウッド演出はミステリを語るには余りにも親切過ぎる。本作はいわゆる”倒序サスペンス”の構成を採っているが、ジャンルの肝とも云える伏線の張り方が本当に下手だ。”あのシーン”が”何処にオチるか”簡単に判ってしまい、お蔭でミステリ的な興奮が皆無だ。また、スター俳優出身だからだろうか、役者を正面から捉えたショットが多過ぎる。ミステリは「後ろ姿」で語るものはずなのに。崖から突き落とされたローラ・リニーにトドメを刺そうと、黒人警護官が病院を訪れるシーンに於いて、ご丁寧なことに、彼にカメラの方を振り向かせている。こんなショットには全く意味が無い。人物描写も何時に無く平坦で、とにかく、どのシーンもひたすら間延びして感じられた。

*2・・・つまりイーストウッドの想いの切実さを感じとることが出来なかった、ということだ。彼が娘を訪ねるシーンが不足していたのかも知れない。冒頭シーンは美術館でスケッチ、などでは無いほうが良かったのではないか?娘が法学校を卒業するところ、或いは、娘が初めて勝利したという法廷のシーンにすべきではなかったか?それを変装した父がそっとカメラに収める。スケッチする。いずれにしても父と娘の間に流れていた「長い空白の時間」を映像として撮り収める必要があったと、俺は想った。

*3・・・逆にジュディ・デイヴィスは喜劇であることを意識し過ぎたのだろう。あんまし笑えなかった。

*4・・・この作品を殺人事件、としてで無くレイプもの、として描いていさえすれば・・・。「騒動を予言した映画」としてワイドショー的価値くらいは増加したろうに。

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)はしぼそがらす[*] 煽尼采[*] 寿雀 けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。