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[コメント] エクソシスト(1973/米)

悪魔とフリードキン。
町田

劇中登場する「悪魔」はキリスト経典とは直接的には何の係わりも無いメソポタミアの疾風神パズズである。獅子の頭と鷲の翼、蠍の尾と毒蛇の男根を持つこの邪神の象徴するものはありとあらゆる種類の「風」であり、古代の民衆が彼に対して抱いた恐怖とは具体的には外部から齎される伝染病への恐怖であった。

思うに、この映画のテーマとは「悪魔との戦い」そのものではなく、「悪魔に憑依された少女への態度・処置」というところにあるのだろう。準主役ともいうべきカラス神父は、アルツハイマー病の老母を死に追いやったことに激しい罪悪感を感じているが、そんな彼の悪魔への執拗な挑戦、不屈の闘争とは母の死に対する贖罪を求める行為に他ならない。

とんでもなく下品な悪魔に憑依された少女は、現実社会に於いては治癒不能の伝染病保菌者であり、手の付けられないほど暴力的な統合失調者といったところだろう。もし私たちが極めて冷静な判断力と高い社会意識を備えた彼女の母親であったならば、わが子を絶対出入り不能の施設に半永久的に隔離してしまえばそれでことは足りるし、もう少し粗暴であれば一思いに殺してしまえばいい。けけけ。しかし現実的にはそう簡単にいかないということを、悪魔は、ウィリアム・フリードキンは突いてくるのである。

この映画の有効性は宗教・宗派の壁は勿論、時代の壁も軽く越えて発揮される。身内や友人の精神疾患というものに直面した経験を持つ者が見れば手に汗握らずにはいられない「社会派娯楽映画」の歴史的傑作に化ける可能性だってある。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)G31[*] おーい粗茶[*] わっこ[*] きわ[*] 草月 マグダラの阿闍世王 ジョー・チップ

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