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[コメント] ベン・ハー(1959/米)

(1)カール・タンバーグの潤色は野心が空回りして壮大な画面を背負いきれていない(2)ワイラー監督の主題(3)『ベン・ハー』の空間的リアリティについて
町田

(1)歴史大河ドラマに現実的・時事的な問題、本作の場合は赤狩り時代の密告強要や人種人権問題、民族紛争など、を取り込もうとする場合に必要と思われる最低限の客観性が本作には欠如している。

ローマ帝国の侵略政策を「悪」、ユダヤの非戦生活を「善」と決め付けるところまでは心情的に理解出来るが、だからといってメッサラが単純な悪、ベン・ハーとその家族達が完全なる善である必要は全く無いと思う。

ベン・ハーの妹が瓦を落として総督を落馬死させてしまった直後、メッサラは自ら瓦を確認に行きそれが完全なる事故であったことを、彼女が無実(過失致死でも充分国際紛争ものだが)であることを観客に対して証明するが、俺はこの手の姑息な心理誘導が大嫌いである。いいじゃん無実なんて証明しなくても。被征服民ベン・ハーの逆恨みでもいいじゃん。

またその少し前、メッサラはベン・ハーに密告を求めるが彼にそれを断られて突然ブチ切れる。説得工作の依頼もなしに。

結局俺にはこのメッサラという人物が、穏健なのか兇悪なのか最期まで判らなかった。馬鹿面で苦悩しているようにも見えないから、ベン・ハーの云う「ローマ帝国の所為で変わっってしまった」被害者という風でもないし、物語展開の都合の併せて便利に描き分けらる昼メロレベルの悪役ってのが本当なんだろうな。

(2)特定の宗教を賛美するのは別にかまわないが、唯一神やキリストに求める「救い」ってあんなに現世的なものでいいんだろうか。宗派によっても受け取り方が違うんだろうが。いや、現世的でもいーんだけどさ。ただ、ワイラー監督にこの物語を通して描いて欲しかったのは「真の自由とか何か?」ということだったんだが。

(3)前半部のスタジオセットシーンは安っぽい、というか、嘘っぽかった。なんだか薄暗くて、光も白っぽくって全然地中海沿岸って感じがしなかった。現地語でなく英語を使用しているのだからせめて雰囲気だけでも再現してくれなければ乗れません。クロマキー合成による海上彷徨シーンなど論外。

逆にインターバル後の後半は競技場の大オープンセット、業病の谷、ゴルゴダの丘とロケシーンが多く迫力満点だったし、幾つかのセットシーンも夜が殆どだったから寂れた旧家の感じとかとても良かった。

(評価:★3)

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