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[コメント] (秘)女郎責め地獄(1973/日)

後の作品ではより大々的に、美的に昇華される屍や人形に対する倒錯愛が、今作では、階級闘争の名の下に、最期の最期で、無残にも裏切られてしまう。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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死神と忌み畏れられた女が、下層市民間の連帯に触れ、精神的愛に目覚めるなどと云う帰結が、そのような理想と善意が、こう云った映画にまで必要だったとは到底思えず、いや確かに、今回作者共が視覚的な表現手段として用いたシュルレアリズムとは、その提唱者自らに寄って「社会に奉仕すべきもの」と定義されている通り、無理なく結合し得るのだろうが、切断された死肉を耽溺するが如き即物性とは、やはり決定的に溶け合っておらず、詰まるところ、ここに表された奉仕の精神と、死体愛好癖の、いずれかは真っ赤な嘘、唾棄すべきハッタリと云う事になるわけだ。そして既に、我々は田中登の後の作品、『実録・阿部定』や『人妻暴行致死事件』、『(秘)色情めす市場』のダッチワイフ男を知っている、その純正の美しさに心を奪われている、だから、ここで物語をさらって行く階級闘争が、時代の熱に浮かされた、青臭いまやかしでしか無いことに、否応にも気付かずにはいられないのである。正直、何の感情をも揺すぶられぬ、どっ白けのラストであった。

屋根裏の散歩者』までは求めない。累々たる屍の上とまでは云わぬ。せめて荒涼と風の吹きすさぶ無人の荒野を一人、糸の切れた操り人形のように歩む、おせんの姿が観たかった。

(評価:★3)

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