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[コメント] 殯の森(2007/日=仏)

日本人霊歌。あの世とこの世の、ちょうど裂け目の場所にて。
Ryu-Zen

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大自然やそこに住まう人々を、かなりスピリチュアルなフィルターを通して活写してる印象を受けた。自然なようで、自然じゃない。奈良県が舞台のようですが、どこかに忘れられた異世界での出来事のよう。am/pmとか現代的なものが出てくると、奇妙な違和感に包まれます。

ある老人と女性のモーニング・ワーク(mourning work)。”喪失”を辿る映画。森の描写、素人役者の素の表情、迷いの無い監督の演出は大胆で力強い。惹きつけるような世界観創りは見事。面白い視点を持った人だなぁと思いました。

気になるところもある。性的な臭いを意図的に、あるいは少し嫌悪を持って排除してるのかなぁ?と言うひっかかりを感じたこと。あの老人は男性だけど、どこか泰然しすぎた存在として描かれていて、その理由として認知症と言う設定があるように思えた(極端に言うと、どこか男性と言う生き物に見えない。見えないようにさせてる)。女性介護士が裸になって彼を温めるシーンがあるけど、なんとなく彼女がそうするんだろうなーと言うのが読めてしまった。なにも起こらない、起こさせないと言う監督の(意地悪な)心の叫びが、かすかに聞こえたような気がした。なぜか、いい気分がしないのです。

物語そのものや、登場する役者および素人さんに対する眼差しの向け方に”包み込むような優しさ”が大きく不足してるようにも思えるのです(すべてを受け入れる、母性的というか)。まずは世界観ありきなのだ、と言う叫び。この河瀬直美と言う人は、たいへんに強い信念を持つ自立した人だと感じた。同時に、我が強すぎて自分以外が見えなくなるタイプでもあるのかな...と。

ユニークな才能を持った監督だけど、生い立ちや人生経験、生活環境で得てきた事がすべてプラスに生かされてるか?と言うと、やっぱり少し疑問があったりして(なかなかそんな人はいないだろうけど)、手放しでこの才能を素晴らしい!と言えないのが残念。

監督が、もっともっと素直に自分の心と向き合った作品が撮れる日が来るのを心待ちにしたい。

(評価:★4)

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