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[コメント] バニラ・スカイ(2001/米)

1回目は、主人公に腹がたったが、2回目は、主人公の気持ちにちょっぴりせつなくなった。『A.I.』のネタばれも。「バニラ・スカイ」のタイムテーブル(01.12.23)
らいてふ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







リメイク元の『オープン・ユア・アイズ』は観ないで行った。劇場CMも目をつぶっていたのだが、ある日、テレビCM(無人のNY、橋から墜落する車、高層ビルの屋上の端に立つ主人公)が目に入り、主演二人の恋仲を報道するニュースも耳に入ってしまった。何も知らずに観たかったのに少し残念。

1回目の評価は☆3つ。CMからアクション映画なのかと勘違いしていたが、予想できない展開のミステリーでたいへん楽しめた。最後に種明かしもしてくれて親切設計。ただ「冷凍保存中の悪夢」というアイデア一発のこの映画、欲を言えばもうひと工夫欲しかったと思う。

自己中心的なデヴィッドとソフィアにいまいち感情移入できず。主役の二人よりも、捨てられたジュリーと、恋人を盗られたブライアンに同情してしまった。トム・クルーズペネロペ・クルスの恋仲情報を聞いたので、なおさら。

あちらこちらに散りばめられている古い映画や音楽、芸能ネタに詳しい人はもっと楽しめそう。デヴィッドが冒頭で観ていた白黒映画、ポスターの「突然、炎のごとく」、フランク・シナトラの話、ビートルズの話、意味がわかる人解説望む!

こういう謎解き映画の場合、2回目には、前回見逃したことをみつける楽しみがあるものだが、2回目は意外なことにドラマ部分にちょっとせつなくなった。

デヴィッドは今までの女を平気で捨てて、親友の恋人を盗る。顔に怪我をしたところで自業自得、外見以外になにを失うわけでもなし。金にまかせて意中の恋人と暮らす夢を見ながら、未来の技術でまたハンサムに戻る。こんなひどい人間を、これでは甘やかしすぎ。世の中には罪も無いのに事故や病気にあい、一生消えない傷をもつ人は、ごまんといる。世界的に有名な女優じゃなくて、ごく普通の女性ただひとりに振り向いてもらえなくて、くやしい思いをしている男だっている。だけど現実を受け止めてがんばって生きている。そのほうが価値があるんじゃない?そんな気もしてちょっと腹立たしかった。だから、「リアルな夢」が悪夢になったことも、LE社の粋な手違いで、ざまあみろという感じもした。最後の究極の選択も、夢の世界でうまくいかなきゃ今度は現実に逃げるという、ずるさにしか見えなかった。

しかし、2回目を観て感想が変わった。あとで気が付いたのだが、ソフィアがジュリーにすりかわる悪夢は、決してLE社だけのせいではなかったのだ。それは、デヴィッドが深層心理で「望んでいた悪夢」だったのだ。もしデヴィッドが良心の呵責のかけらもないような人物なら、ハンサムな顔に戻って、理想の女性ソフィアとも親友ブライアンとも幸せに「リアルな夢」で暮らしていただろう。しかしデヴィッドの深層心理はそれを許さなかった。デヴィッドの、ジュリー、ブライアンに対する罪の意識があの悪夢を産み、LE社はそれを制御することができなかったのだ。

LE社サポートは、無償で修復(おそらく、都合の悪い部分の記憶の消去)することによって「リアルな夢」に戻れることも提示したが、デヴィッドはそれを選ばなかった。最後の望み、幻のソフィアのイメージに向かってデヴィッドは言った。「彼女(ジュリー)の車に乗らなければ。」それは、自分の罪を認め、罰を受け入れて、初めて「自分にとってのしあわせ」をつかむことができることに気がついた瞬間なのだと思う。

奇しくも主人公が同じ名前の『A.I.』だが、ラストシーンには共通点が多い。薄幸の少年ロボット・デヴィッドも、何一つ不自由の無いリッチマン・デヴィッドも、最後の望みは、最愛の人との再会。たとえそれが偽りであっても…。ロボット・デヴィッドは、たった一日だけと知っていても再会を望んだ。そしてバニラ・スカイのデヴィッドは、再会後も永遠に一緒にすごせることを知りながら、それは選ばなかった。どちらもせつない話である。

≪「バニラ・スカイ」のタイムテーブル≫ 回想や夢のシーンがつぎつぎと出てくるこの映画は、主人公も区別がつかない「リアルな夢」がストーリーの核なので、はじめ非常に混乱させられる。実際に起こったと思われる順番にできごとを並べ替えたタイムテーブルをつくってみた(間違いは、ビデオが出たら直すつもり)。現実でのできごとは○、夢や虚構のできごとは●、デヴィッドのオリジナルの顔を(A)、怪我をした顔を(B)、マスクをかぶった顔を(C)と表記した。

≪NYを見下ろすショット、暗闇に風だけが鳴り響き映画は始まる≫  ●(夢)午前9時すぎなのに無人のNY。車はフェラーリ(A)  ○デヴィッド 33歳 ジュリーと交際中(A)  ○ブライアンと交通事故寸前に。車はフォード(A)  ○誕生日パーティ(スティーブン・スピルバーグのカメオ出演)(A)  ○ソフィアとの出会い、モネの画いたバニラアイス色の空の絵(A)  ○ソフィアの家で夜通し話明かす。ソフィアの古い写真、LE(生命延長計画)のテレビを見て、ソフィアの似顔絵を描く(A)  ○明け方、ジュリーの車に乗る(A)  ○交通事故(無理心中)でジュリー死亡。デヴィッドは顔に大怪我(A→B)  ○3日間意識不明 手術をするが、顔は醜くなる(B)  ●(夢)公園でソフィアと会う(A)  ○主治医から義顔を渡される(B)  ○声だけで会社の会議に出席するが、重役は納得しない(B)  ○ダンスレッスン中のソフィアと再会。デートの約束をする(B)  ○約束のクラブで、ソフィアが連れて来たブライアンと再会。(C→B)  ○「猫に生まれ変わったら話すわ」と言うソフィアが、逃げるように立ち去る。実はこれが真実のソフィアとの永遠の別れ。ブライアンにも愛想をつかされ、絶望したデヴィッドは道路で倒れる。BGMが乱れてスローになり止まる(B)

≪チェックポイント。ここから先は、後日記憶を消される≫  ○その後ソフィアとは一度も会えず、落ち込む毎日。LE社とネットで接触、相談(B)  ○LE社を訪れ、赤い服の女と技術サポートの男に出会う(B)  ○LE社と「死後凍結」+「リアルな夢」オプションを契約(B)  ○弁護士の協力のもと、会社に復帰、財産確保(B)  ○デヴィッド服薬自殺(B)  ○ブライアンが葬式を出し、デヴィッドの訃報に悲しむソフィア(B)  ○LE社がデヴィッドの死体を冷凍保存、「リアルな夢」オプション開始(B)

≪LE社は、道路で倒れてから死亡までの記憶を消去。ここより「リアルな夢」≫  ●明け方、バニラ色の空のもと、道路上で目覚め、ソフィアに助けられる(B)  ●ドイツの新技術で再手術、この手術を見守る人の中にLE社員もいる(B)  ●ソフィアが手術の成功を告げる(C→A)  ●レストランでブライアンとも和解し友情が戻る。サポートの男がモデム音と共に一瞬出現(A)  ●ソフィアとのベッドシーン、胸のほくろを確認(A)  ●●(「リアルな夢」の中での夢)洗面所で怪我した顔に変化、ソフィア絶叫(B)  ●今度はソフィアの顔がジュリーに変化、デヴィッドはジュリーの手首をしばり暴行、自ら警察に通報(A)  ●ソフィアへの暴行容疑でデヴィッド逮捕。暴行を受けたソフィアの写真はジュリーの顔。弁護士の計らいで不起訴、釈放(A)  ●レストランでサポートの男から、環境を操れとアドバイスされる。デヴィッドが望むと周囲はすべて静止する(A)  ●混乱したデヴィッドはソフィアの部屋へ行くが、写真も似顔絵もジュリーの顔に変わってしまっていた。突然現れたジュリーに蹴りを入れられる(A)  ●台所でジュリーはソフィアに変化、ベッドに入るとソフィアはジュリーに変化。BGMにモールス信号のSOSとモデム音が重なる中、デヴィッドは錯乱し女を殺害。殺害されたのは胸にほくろのあるソフィア。(A)  ●殺人容疑で逮捕、精神科医と出会い、今までの体験を告白(C)  ●寝言の「エリー」がLE社のことであると気づき、真実を知るために精神科医とともにLE社に向かう。途中でLE社の宣伝文句が混入(C)  ●LE社で「死後凍結」と「リアルな夢」の説明を聞き、自分が「リアルな悪夢」に閉じ込められていると気づく(C→B)  ●助けを求め、サポートの男と再会、エレベーターで真実を知る(B)  ●精神科医、自分が「リアルな夢」のイメージにすぎないことを知り驚愕(B)  ●修復された「リアルな夢」でソフィアと暮らすことと、現実に戻ることとの選択を迫られる(B)  ●バニラ色の空のもと、屋上でイメージのソフィアと別れ(B→A)  ●「リアルな夢」の中止と解凍再生を希望し、屋上からジャンプ(A)  ●地上と衝突の寸前、生まれてからの記憶が走馬灯のように甦る(A)

≪「リアルな夢」オプションの終了≫  ○「Open your eyes.」の呼び声で150年の眠りから目を覚ます。デヴィッド183歳。未来の技術で顔の形成は可能。ただし会社の財産は底をつき、ソフィアを含めて知人はすべて死亡。(B→A?)

≪エンドロール、背景は夜明けのようなバニラ色に変化。最後にレコードが止まる音≫

追伸:最後の「Open your eyes.」の声が、誰の声かは謎。聞こえた限りでは、ソフィアの声のようだが、ソフィアは何十年も前に死んでいるはず。そこで勝手に考えたラスト→「Open your eyes.」の声に150年の眠りからデヴィッドが目を覚ますと、窓際で一匹の猫がこちらを見つめていた…。

01.12.15 screen 388seats DOLBY SRD

01.12.22 screen 278seats DOLBY SRD

(評価:★4)

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