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[コメント] 静かなる決闘(1949/日)

自分の思い通りに生きるのは難しい。それでも自分を理解してくれる人はいる、そんな黒澤的理想郷。
モモ★ラッチ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画には、自分の感情を押し殺して生きていた人間が二人いる。

一人は、自分の病をひた隠しにして婚約書を拒み続ける成年医師藤崎。彼は婚約者に自分の病気のことは告げない。一緒に闘ってくれとも言わない。そこには、事実を告げると、自分の元からさってしまうのではないかという恐れがあるからではないか。自分の病気と闘いつつも無理して背伸びしている、そんな弱さを感じさせる男でもある。

もう一人はそんな彼に対する思いをいつもそばにいながら告げることの出来ない看護婦。その気持ちは、ことばになると憎まれ口に変わって出てくる。子供のような存在である。

そんな二人がお互いの思いの丈をぶちまける。二人のキャラクターの違いを明快に表すように、藤崎は堰を切ったように激しく大声で、看護婦はぼつりとつぶやくだけ。

季節が変わり、(藤崎に病気を移し挙句に破滅してしまった)中田の妻を元気付ける看護婦の姿が映される。監督は、その姿に二人の未来への期待を示唆させた。そう考えると、強引に考えれば、あの婚約者は、二人の遠回りの恋を成就させるための存在に過ぎなかったとも取れる。メロドラマとも取れる。

あともう一人、上記二人とは対照的に、欲望の赴くままに生きている中田という存在もいる。彼は、その行為によって破滅してしまい、唯一バッドエンドの登場人物になってしまったのだが、彼も結局弱い人間に過ぎないわけよ。医者や看護婦とあまり変わらない。

しかし最後に含蓄のあるセリフで決めてくれるのはやはり志村喬だった。聖者になりたくはない藤崎を聖者にしてはいけない。それは、聖者じゃなくても人間は十分素晴らしいものだろ。という監督のつぶやきでもあるのかもしれない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)シーチキン[*] 水那岐[*] いくけん[*]

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