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[コメント] 血と骨(2004/日)

「知力」が尊ばれ「愛」が魅力と見なされる現代社会の風潮の中で、人は「腕力」を一段低くみなし「金」の力を蔑む。しかし、度を越せば四つの力はいずれも「暴力」に成り得る。生きることへの過剰な思いが俊平(ビートたけし)という怪物を生んだ。
ぽんしゅう

「知力」をもって人を引き付け支配するのは、さしずめ思想家や哲学者、宗教家であろうか。彼らの過剰な思いは時として人を誤った道に導き、戦争という名の「暴力」を生む。

「愛」をもって人を魅了し支配するのは、さしずめ親や恋人、ピュアな善意者であろうか。彼らの過剰な思いは時として人を堕落へと導き、過干渉という名の「暴力」を生む。

朝鮮の中においても被差別的地域に置かれるという済州島から、新天地を求め日本へと渡った「知力」と「愛」を持たぬ俊平(ビートたけし)が、新たな差別の地で一から我が家系を築くにあたって「腕力」をその手段とし、社会的地位を確立するのに「金」の力を用いる。ある意味で、真っ当なことである。

ただ、俊平の家族と新社会に対する思いが強ければ強いほど、その激しさと正比例するように彼の唯一の手段である「腕力」と「金の力」は想像を絶する「暴力」にまで高まり、過剰な支配を生んだのだろう。

人は何を信じ、何によって己のアイデンティティを確立するか?。人は皆、己と社会との線上を危ういバランスをとりながら生きているのかも知れない。そして、人がピュアであればあるほど、己も意識せぬうちに心の中の過剰さが頭をもたげるのかも知れない。無意識の暴力ほど怖いものは無い。

「ゴッド・ファーザー」に成りえる資質を備えながら、バランスをとる器用さを持ち合わせなかった男の人生と翻弄される人々の怯えを描いて、画面の隅々にまで哀しさと活力の溢れる力作であった。

(評価:★4)

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