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[コメント] ゲルマニウムの夜(2005/日)

禁じ抑圧することで人を盲目の民の集団におとしめ導くことの欺瞞。その軌跡こそが人の生きにくさの歴史なのではないのだろうか。獣の本能を封印されたとき感じる息苦しさを、本当はみな知っているはずなのだ。だからこそ、朧(新井浩文)は神になるのだ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







人間は生きるために生殖を行うのであり、生き残るために力を振るうのである。それはいたって本能的な行為である。であれば、その根源的行為を司るものこそ神なのだ。

宇川(大森南朋)や隊長(大楽源太)を屈服させる破壊的暴力。教子(早良めぐみ)の癒されぬ子宮をたっぷりと満たす精液と、テレジア(広田レオナ)の胎内に宿る新たなる野獣。本当の神が見えず朧(新井浩文)に捨てられる院長(石橋蓮司)と、新たな神の出現を感じつつそれを認めることが己の全否定になる戸川神父(佐藤慶)の恐怖。

朧が朧として生きること。規範を踏みにじり倫理を破壊すればするほど、男たちは自分の前にひれ伏し、女たちは身を投げ出し、偽善者たちはひるむ。朧はトオル(木村啓太)の愛撫に身をゆだねながらその舌に包まれた自分のペニスこそが、この世界の全てたと気づいたに違いない。その瞬間、朧はすべての人々から求められ神への道を歩み始めたのだ。

何のてらいも、気負いもなく確信犯的に淡々と新たな神の誕生と救いを描ききった大森立嗣監督に並々ならぬ可能性を感じた。

(評価:★4)

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