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[コメント] クラッシュ(2005/米=独)

同じであるということが生む安心感と、違うということがかき立てる不安感。それが人間の本能である限り、この世から差別や偏見は絶対になくならないのだろう。ここで描かれる衝突は、社会的な背景が生むうわべの現象などではなく人間そのもの心の衝突である。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この作品では、ロスの街は登場人物の背景として必要最小限にしか映し出されない。金品への欲望、愛憎のもつれ、心の傷や怨みといった物語の核となる劇的な要素も設定されていない。あくまでも画面の中央に終始すえられるのは人間であり、その人間が人種ごとにおくる日々の様子でしかない。

しかし、一旦人間が人種ごとに区分けされた瞬間、人間は人間としてのバランスを失い互いに別の生き物であるかのように人種としての価値と利害を主張し、不安と不満をぶつけ合う姿が浮かび上がる。我々は、そこで繰り広げられる差別や偏見や対立の根が、都市や階層やシステムといった社会的な背景にあるのではなく人間の危うい本能の中に存在していることに気づくはずだ。

人間は人種や民族という単位になったとき固有の伝統と文化と誇りを獲得する。同時に、その差異に対して偏見と差別心をも抱く生き物なのだ。私もあなたも他者を差別する、あるいは未知のものに偏見を抱く生き物である。この事実を常に自覚し、注意深く各自が自分をコントロールしながら対立の芽を摘んでいく以外に、人間は「本能の衝突」から逃れる手段を持っていないのだ。

ラストシーン。冷静なアジア人の保険調査員と誠実なアフリカ人の病院紹介ボランティアが、交差点で追突事故を起こし罵り合うさまをカメラは俯瞰でとらえ天へと登っていく。その視点こそが、人種を包括して人間として獲得すべき視点なのだ。

(評価:★5)

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