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[コメント] の・ようなもの(1981/日)

世間の常道から少しずれた人(落語家や風俗嬢)たちのマイペースに向けられる優しい目。ワル乗りしないドタバタや品の良いナンセンスギャグ。夜の彷徨に漂う情緒に流されない都会的でお洒落な悲しみ。再見して森田芳光のほぼ全てが詰まっていることに気づく。
ぽんしゅう

追悼上映会で31年ぶりに劇場鑑賞する。

30年以上たっても、やはり秋吉久美子の自然体が発するフェロモンは尋常ではなっかた。そして、志ん魚(伊藤克信)や志ん菜(大野貴保)ら若手落語家の半人前ながら自らの前途を疑わない明るさ。苦節20年の兄弟子(尾藤イサオ)の調子の良さの陰にときおりにじむ寂しさ。昨今、怪優の域に達した感のあるでんでんも、すでにその片鱗をみせ存在感を示していた。そんな、世間から少し外れた路を歩む者たちに向けられる森田の目が実に優しい。この視線こそが森田作品の底流にあった「暖かさ」(『家族ゲーム』『ウホッホ探検隊』『愛と平成の色男』『キッチン』『間宮兄弟』etc)の源だ。

CATVディレクター(鷲尾真知子)率いる女子高生4人組(麻生えりか五十嵐知子ら)のバカみたいな軽さや、「天気予想」に奔走する団地のドタバタぶりにも、ぎりぎりのところで悪趣味を回避する天性の品の良さを感じる。この都会的なセンスが、終電を逃した志ん魚(伊藤克信)が、面前に巡る景色を心中でつぶやきながら深夜の下町を歩く名シーンの「乾いた悲しみ」に通じていることに気づいた。森田作品の叙情(『マル本 噂のストリッパー』『ときめきに死す』『それから』『(ハル))』etc)はいつも乾いていた。

心より、森田芳光氏のご冥福をお祈り申し上げます。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ナム太郎[*]

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