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[コメント] カメレオン(2008/日)

カメレオンは置かれた状況により体の色を変える。ならばカメレオンの本当の色は何色なのだろう。たぶん色を持たないのがカメレオンなのだろう。藤原竜也の快演に、そうか邦画界のこんなところに生身を駆使して奉仕するアクション俳優がいたのかと安心する。
ぽんしゅう

藤原竜也演じる野田伍郎は、何者でもないという点で昭和のアクションヒーローと一線を画している。未来に対する目標や希望、まして野望などない。むしろ老後が不安だとうそぶく。仲間たちのリーダー的な役回りは 演じているようだが、個性や意志で彼らをまとめたり牽引していくわけではない。まして自ら危険に身をさらし高額な報酬を求めるわけでもない。女に対しても淡白だ。佳子(水川あさみ)との関係も、むしろ女の意志のおもむくまま受動的に状況を受け入れるだけだ。

松田優作を想定して書かれた脚本をリライトしたそうだが、どれくらい改変されたのだろう。野田伍郎という青年は、松田が演じてきたキャラクターとはかなり趣の異なる「何者でもない男」である。一方、松田が演じた男たちの過去は閉じられており、ほとんどの場合が謎であったの対して、野田伍郎の生い立ちと、そこに秘められた無軌道ともいえるアグレッシブさは、とうとうと語られ観客に伝えられる。松田が演じた男たちは、松田優作という個性に染められ単純化され、ある種の明確さを持った存在であった。一方、野田伍郎は「何者でもない男」であるがために、いかようにでも変幻する複雑さを秘めた存在である。

そんな、野田伍郎のなかに秘められた、柔和さ、無気力さ、無邪気さ、そして殺気と爆発する狂気を藤原竜也はその身体性をもって体現していた。さらに、藤原によって吐き出された「気」と「動」を阪本順治は余すところなく画面に定着させることに成功している。これは『BOXER JOE』(95)の時にも感じたのだが、阪本は動的被写体(人物)の存在自体に魅力を見い出すと、その肉体を徹底的に観察し追いながらが、純粋構成要素とでもいうべき「気力」と「体力」を抽出することに長けている監督なのだと思う。

まあ、そんな理屈抜きにして、充分楽しい、待望のアクション映画でした。

(評価:★4)

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