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[コメント] 扉をたたく人(2007/米)

「頭で考えてはだめだ!」。ウォルター(リチャード・ジェンキンズ)にドラムのたたき方を教えるタレク(ハーズ・スレイマン)は、そう強く指摘する。人が頭で考え出した最大の成果のひとつが、法を整え、制度を運用し、規制をかけることであるという息苦しさ。
ぽんしゅう

クラシックピアノの優雅な美しさとは、一定の規律のなかで奏でられる安定という名の心地よさであろう。一方、ストリートミュージシャンたちによって、たたき出されるジャンベ(ドラム)のリズムの高揚感。そこにあるのは、心のままの乱打が生み出す自由という名の開放感だ。困ったことに、我々は常にその両方を求め続けている。

規制という制約は安心感を約束するが、そのなかで妻を亡くしたウォルター(リチャード・ジェンキンズ)のように、ひとたび心の安定を欠くと過度の倦怠と出口の見えぬ閉塞に見舞われる。そのさまは、まさに、9.11以降のアメリカの苦悩のようにも見える。この閉塞と倦怠を打ち破る術は、トム・マッカーシーが示唆するように硬直し続ける規制の外側に存在しているのかもしれない。

タレク(ハーズ・スレイマン)やゼイナブ(ダナイ・グリラ)さらに、彼の母(ヒアム・アッバス)のよに自由を希求する者たちに、ウォルターがそうしたように、アメリカは心を開くことができるのだろうか。しばし頭で考えることを中止して、硬直した規制に跳ね返され続ける人々の声に真摯に耳を傾ければ、自らの心も癒され、再び「自由の女神」も輝きをとりもどすことだろう。

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