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[コメント] ゼロの焦点(2009/日)

大きな夢を目指す佐知子(中谷)と小さな幸せを願う久子(木村)。二人の演技合戦の間で何もできない広末がそのまま禎子を体現しているという嬉しい誤算。鹿賀、本田、西島、野間口らの芝居気たっふりの男のズルさ、弱さ、純情ぶりもいかにも東宝らしい娯楽映画。
ぽんしゅう

松本清張の映画化というと『砂の器』(74)や『鬼畜』(78)、古くは『張込み』(58)などのせいか、野村芳太郎監督や橋本忍脚本に代表される松竹作品が思い浮かびます。これらの松竹系の映画には、運命や人間に対する諦めのような冷徹さが共通して流れていて、ある種のストイックな感覚が漂い、それが魅力になています。

一方に、『黒い画集』シリーズ(60〜61)や『けものみち』(65)、『愛のきずな』(69)に代表される東宝系の作品群があります。こちらは同じ清張映画でも娯楽に徹してサービス精神が旺盛です。各作品とも堀川弘通杉江敏男鈴木英夫須川栄三坪島孝といった文芸ものから喜劇までこなす職人監督たちの個性が、好くも悪くも面白さを競うかのように色濃く現れているのが特長です。

そして、このサービス精神旺盛な娯楽サスペンスの流れは、70年代に角川映画と組んだ市川崑監督の横溝正史シリーズへとつながっていきます。サスペンス初挑戦の犬童一心監督ですが、今回の「ゼロの焦点」もそんな東宝娯楽映画らしいケレンに溢れ、女優陣の魅力を巧みに引き出した華やかな仕上がり。雪にかすむ北陸の風景や、よく再現された昭和の景観も味わい深く、2時間たっぷり楽しめました。

ところで4点という点数ですが、何故かしばしば名作と呼ばれる(おそらく利害関係者が言っているだけだと思うのだが)松竹の野村監督版『ゼロの焦点』(61)よりは、ずっと面白かったという意味での相対評価です。扱われている題材や、若い男女優の出演がないことで、やや観客を限定してしまうかもしれませんが、理屈ぬきで楽しめる娯楽サスペンスとして合格点だと思いました。

(評価:★4)

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