[コメント] 黒い十人の女(1961/日)
目的などとうに見失い、仕事に追われながらただフワフワと漂っているだけの風(船越英二)とは、まさに高度経済成長期の浮ついた空気の中、風のように実体なく流されていく男たちの象徴であろう。だから女たちはこの男に、戸惑い苛立ち、そして優しいのだ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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面白いのは女性の社会進出が本格化するのは、まだ先のはずなのに登場する女たちが皆職業を持っていることだ。彼女たちは、それぞれ経済的には男に依存することなく地に足をつけて時代を生きようとしている。そして彼女たちは、風(船越英二)という男の存在によって、その生き方をさらに先鋭化していくのだ。
風(船越英二)の妻の座を捨て専業主婦から脱皮し水商売という極めて俗な世界に生きる双葉(山本富士子)。未亡人として印刷会社を切り盛りしながら、男を追って自ら命を絶ち霊界へと赴き古風な女を貫く三輪子(宮城まり子)。そして、女優という虚業のベールを颯爽と脱ぎ捨てながら、先の見えない現世へと突進して行く市子(岸恵子)。
これは、戦後の急速な価値転換の中、何かに憑かれたように突き進み続ける男たち、すなわち社会に対して和田夏十が代弁した女たちの焦りと動揺、そして男に代わって時代を背負う覚悟の宣言物語である。
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