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[コメント] 戦火のナージャ(2010/露)

頬引きつる渇いた笑いを交えつつ、人を人と思わぬ圧倒的な殺戮として惨禍は描かれる。その語り口は決して大雑把な見世物的悲惨の誇示に陥ることなく、精緻、繊細であり独裁や戦争の不条理と不気味さを見せつける。そして、人に回帰するラストのなんと神々しいこと。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







終始、戦闘は膨大な量の人の死として描かれ、その圧倒的殺戮の戦慄のまえに、人の人としての尊厳は霞んでしまう。確かに、その止まることを知らぬ理性なき暴力こそが戦争の実態に違いない。しかし、ニキータ・ミハルコフは、最後の最後に人へと回帰する。

あらゆるものがカタチを失くした廃墟のなかで、瀕死の青年の最期の願いをかなえるナージャ(ナージャ・ミハルコワ)。そのさまは、まさに死を司るタナトスの横暴に、自らの裸身をもって対峙する生の化身エロスの女神の図である。そして、少女ナージャが人の母となるべく女を、ついに自覚した瞬間でもあるのだ。

廃墟に芽生えた「生」の息吹の、なんと神聖で神々しいこと。ニキータ・ミハルコフは終幕の第三部に着手したそうだ。

(評価:★4)

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