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[コメント] J・エドガー(2011/米)

良くも悪くも米国が最も脚光を浴びた時代の裏面史を、テンポ良くたどる逸話の数々はエキサイティングだし、公の組織強化と自身のコンプレックスの補強を混同するバランスを欠いたフーバーの人物造形と、それをカタチ作るプライベート描写も人間臭くておもしろい。
ぽんしゅう

しかし、そんな逸話が羅列されるばかりで「米国の権力裏面史」と「マイノリティの愛憎物語」の主従関係が曖昧で、結果どちらの話も掘り下げが浅く感慨が深まらないのが残念。とても面白い題材だったので、もっとエキセントリックなドラマが観たかったと、無いものねだり承知のフラストレーションが溜まるのでした。

例えば、メディアを通したプロパガンダに優れ、政治家と議会を巧みに操り、国家にとって危険だと感じた者は容赦なく排除する反共主義者フーバーは、侵略戦争と大量虐殺こそ起こさなかったが、一歩間違えばヒットラーになりえていたのではないか。そんな物語を創作するのは乱暴すぎるだろうか。

あるいは、社会的には自らの嗜好をひた隠しながら、誰にも侵されない聖域を持ちたいと願った性的マイノリティたち(幸福そうな男二人にに比べて老ナオミ・ワッツが引きずる翳の深さ!!)が、ふと気づいたときには男女のスキャンダルで武装した強固な権力組織の頂点に、矮小で閉鎖的な楽園を築いてしまっていた。なんていう、米国権力闘争史に秘められた同性愛者たちの大メロドラマじゃだめでしょうか。

脚本のダスティン・ランス・ブラックは、ガズ・ヴァン・サントの『ミルク』も書いているので調べてみたら、やっぱり彼もゲイなんですね。ブラックにとっては現代米国権力史における両極のゲイ二部作なのかもしれませんが、もうひとり別視点の脚本家が参加していたら、私の無いものねだりの無茶もかなっていたかも・・・。今回はイーストウッドうんぬんではなく、要は脚本の練りこみ不足が問題じゃないですかね。

(評価:★3)

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