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[コメント] 果てなき路(2010/米)

嘘に恋した男の話だ。嘘とは、謎、死、エロス、銃撃、策謀、愛。つまりは映画に恋した男の話。男とは劇中監督タイ・ルニャンでありモンテ・ヘルマン。当然、冒頭から混濁する映画のなかの映画と現実の映画。意味が場面に閉じ込められ場面の関連が喪失しかける。
ぽんしゅう

例えば空間と異物。民家の暖かな灯がともる夜景、そんなありきたりの日常を引き裂く発砲音。森の木洩れ日を映しこみ、人工的で毒々しい色に染まる車のボディの曲線美。絵画のように空気まで静止した湖に、唐突に飛来し安定を破壊する落下物。恋人たちの熱情で発光したかのように、水紋の影が夜の闇に照射され、異界の生物のように輝き揺らめく観光地の巨大な噴水。

あるいは人と場。リゾート地の浜辺のパラソルのもと、バカンスを満喫するようににこやかに悪事の談合にふける二人の強面男。湿気の充満するトンネルの闇で激しく嗚咽する逆光のシルエット女。都市の雑踏のなか、携帯電話で異国の地の女から報告を受ける謎のビジネスマン。片田舎のホテルの貧相なバーで、公用と私情と酒にまみれ探りあう女と男たち。

映画の作り手によって「意味」が封じ込められたそんな場面が連なり続ける。私たち(観客)は、その場面からにじむ「意味」の尻尾をつなぎ合わせ、自ら新たな「意味」を創造し結末へ向けて自分だけの物語を綴っていかなければならない。

モンテ・ヘルマンが強いるのは、作り手の「意味」を観客がトレースしていく行為。トレースラインは、ときにピタリと重なり合い、ときに大きくずれながら、送り手と受け手の間で揺れ動く。その共感と裏切りの振幅のダイナミズムこそが、我々を魅了してやまない映画という魔者の本性なのだとモンテ・ヘルマンは語っているのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

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