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[コメント] 鍵泥棒のメソッド(2012/日)

殺し屋と婚活女のキャラクターが絶妙。こんなに魅力的な広末涼子を観るのは『鉄道員』以来だ。現代版スクリューボール・コメディでは男と女は対立などしない。二人は、ひたすら本当の自分を取り戻そうと不器用に互を観察する「健康な努力家」同士なのだ。
ぽんしゅう

「健康で努力家でありさえすれば・・・」。一見つつましく聞こえる香苗(広末涼子)の理想は、徹底的に合理化された実利に裏付けられている。コンドウ(香川照之)の几帳面な合理は、あくまでも思いのためにカタチを重んじる〈健康な努力家〉のそれだ。

香苗の、思いよりカタチが優先してしまった婚活という空疎な努力。コンドウの、もう一度自分のカタチを作ろうとする真摯な自己確認という努力。内田けんじは、その「思い」と「努力」の方法(メソッド)のズレの隙間に、こっそり、且つたっぷり、しかも驚くほど巧妙に皮肉やボケを仕込んで笑わせてくれる。

古典的スクリューボール・コメディは、男と女の陽性な個性がぶつかり合い、大喧嘩のすったもんだに笑いが仕組まれるというのがパターンだ。このコメディの男と女は、陰性な個性が互いに誘引し合って、その隙間に笑いが生まれる。実に緻密で繊細な逆スクリューボール・コメディなのだ。「塩」のギャグのオチなど笑うのを忘れて感心してしまった。

今の日本映画界において、内田のコメディ感覚は抜きん出た存在だ。例えば三谷幸喜は映画に笑いを加えようとするが、内田は映画そのものを笑いにしようとする。ビリー・ワイルダーはあきらかに後者だ。内田はモノが違うのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)G31[*] まー[*] 林田乃丞[*] セント[*] ALOHA ペペロンチーノ[*] なつめ[*]

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