[コメント] 悪の教典(2012/日)
もっと軽快に!と劇中で自ら鼓舞しておきながら、「Mack The Knife」の力を借りても、いまひとつ殺戮に軽やかさが出ないのは、ハスミンの過去を語り過ぎたからだろう。エクスキューズは、安心を生むだけで「悪」の純度を薄めてしまう。得体の知れなさこそが魅力。
『ノーカントリー』(07)のシガー(ハビエル・バルデム)の「悪」は、殺し屋すなわちビジネス遂行者としての常軌を失した冷徹と過剰さにあった。『ダークナイト』(08)のジョーカー(ヒース・レジャー)の「悪」は、正義の混乱につけこみ偽善を笑う純度の高さが脅威だった。
無差別大量殺戮者として、その行為に論理的な、あるいは科学的な理由がないことこそが蓮実(伊藤英明)の「悪」の意義なのではないだろうか。例えばそれは、『コレクター』(ワイラー・65)のテレンス・スタンプや、『サイコ』(ヒッチコック・60)のアンソニー・パーキンスの陰性な「悪」の裏返し、すなわち理屈抜きの陽性な無差別暴力として描かれてこそ、現代的な意味と魅力を獲得したはずだ。
伊藤の端正な風貌と飄々とした身のこなしは、現代版スタンプやパーキンスに成りえる魅力を持っていただけに残念。続編があるなら期待する。
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