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[コメント] 6才のボクが、大人になるまで。(2014/米)

一瞬を逃すなと人はいうけれど、一瞬こそが「すべて」なのだ、と劇中で語らる。その「すべて」の蓄積こそが時間であり、人生であり、歴史であるということ。「その時」を12年間記録し続け、ドラマを創作することによって時間そのものの映像化を試みるという野望。
ぽんしゅう

流れる時間をテーマに据えて、時間そのものの視覚化を試みるとい創作手法は、小説や演劇にはできない。映画ならではのものだ。これに類似した試みとしてテレビドラマ「北の国から」が思い浮かぶ。「北の国から」は登場人物の人生をドラマとして描くことに主眼が置かれていた。この映画は12年間をわずか2時間45分に凝縮し、時間そのものの意味をドラマとして映像化している。そこに違いがある。

前者が時間のなかでの人の成長や移ろいを描いているのに対して、後者は人のなかを流れる時間を描くことによって、時間そのものを「目に見えるカタチ」としてスクリーンに映し出しているのだ。そこが、この作品の挑戦的意義であり、画期的成果なのだ。まさにオンリーワンの作品である。

この12年間の「時間」は様々な顔を見せる。まず、そのまま2000年代のアメリカ史であり、国際情勢のなかの国家という大局から、テキサスという保守の土地のなかで民主党を支持するインテリ層(散弾銃や洗礼のエピソード)のアメリカ国民としての日常という、いわは帰属背景を流れる時間が持つ顔。

さらに、家族という人にとっての生活の定型は、実は時間の流れによって変形しゆく不定型なものであり、その紆余曲折こそが、人が幸福を求めって止まない生きものの証しであるということ。そして、その変転する道のりに生じる、登場人物たちの成長や老いによる肉体的、精神的変化。そんな個のなかを流れる時間がみせる顔だ。

そして、登場人物と同じ年頃の子供を持つ私にとって、子供と過ごした時間に想いを寄せ「もっと長いと思っていたのに、あまりにも時間は短すぎた」という母親(パトリシア・アークエット)の心の叫びは、胸を打つ。12年は長くもあり、短くもあるということ。ただ決して戻ってはこない。だからこそ一瞬が「すべて」なのだ。

(評価:★5)

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