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[コメント] 海街diary(2015/日)

父性の記憶。母性の痕跡。それは、懐かしさと煩わしさとして常につきまとう。良きにつけ悪しきにつけ、その呪縛こそが人が生きている証しなのだ。ときに、人はその記憶や痕跡を安らぎの寄る辺として希求し、一方で、自力では解凍できないその束縛にあがき悩む。
ぽんしゅう

長女(綾瀬はるか)の生真面目さとプライドと意地と不倫。次女(長澤まさみ)の楽天と奔放と自制の欠如。三女(夏帆)のマイペースぶりと柔軟な親和力。そして、すず(広瀬すず)の自立心と従順と罪悪感。四姉妹の性格や、それぞれが抱え込んだ思いはごくごく一般的なもので、特段、ドラマチックではない。

それなのに、この四姉妹が織り成す日常の「diary」の断片には、ときおり遠い過去へと連なる深い滋味が溢れだす。それは彼女らが、本人たちも気づかぬうちに宿している父性や母性が刻んだ「生のなごり」によるものだろう。この「なごり」はおおむね安らぎをまねくが、ときに瑕となって痛みを生むこともある。

それは、昨今、もてはやされる「家族の絆」などというお題目的「つながり」などとても太刀打ちできない、「命の連鎖」という「つながり」が、安らぎや痛みにカタチを借りて表出していることの証しだろう。「生きる」ということは無意識に過去と「つながってしまう」ということなのだ。どうりで楽しくもあり、面倒でもあるわけだ。

四姉妹の「diary」、すなわち極私的物語に接して、そんなことを考えた。瀧本幹也のカメラが切り取る四季が心地よい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)カルヤ[*] jollyjoker けにろん[*] ナム太郎[*]

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