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[コメント] ディストラクション・ベイビーズ(2016/日)

人は物事に「理由」を付けることで平穏を保つ。それは暴力に対しても同じだ。いじめの原因。殺人の動機。戦争の発端。懸命に理由を探し、見つからなければ作り出してでも安心を得ようとする。泰良(柳楽優弥)の血染めの拳は、そんな柔な理性の壁を打ち砕く。
ぽんしゅう

良し悪しや、強弱を別にして、必ず人の心の底には破壊願望や暴力欲求が存在する。私自身のなかにも確かに存在する。それは通常、道徳や倫理や法によって封印され、人はゲームやスポーツで紛わせ、もしも禁を犯せば刑罰として強制的な監視の下に置かれてしまう。

「楽しければいい」という泰良(柳楽優弥)の剥き出しの暴力は、「理由」ではなく「感情」に起因する。これは我々のなかに封印された純粋の暴力欲求の姿そのものだ。その暴力に憧れ便乗する者(菅田将暉)。その暴力に理性を失う者(小松菜奈)。純粋さは、それを望む者の心に共鳴し、それを恐れる者を混乱に陥れるのだ。

たとえば戦争という暴力の内奥にも「楽しければいい」という人間の本質が隠れているとしたら。そんなことを想像すると、どうしようもなく絶望的になる。何故なら、戦争という暴力には立場によるそれぞれの「見解」は存在するが、すべてを包括する正統な「理由」など有り得ないことに、私たちはとうに気づいてしまっているのだから。

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このコメントを気に入った人達 (4 人)tredair DSCH deenity[*] ペペロンチーノ[*]

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