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[コメント] 脱出(1972/日)

60年代の騒乱が沸点に達し、煮詰まった情念が一触即発の様相を呈した70年代初頭。そんな時代の気分が炸裂する傑作。そして逃避願望が無条件の海外礼賛に昇華した混血青年(ピート・マック・Jr)を慕う、蓮っ葉な不良娘(フラワー・メグ)の健気が切ない青春物語。
ぽんしゅう

さらに、忘れてはならないのは、たたみかけるような和田嘉訓監督の演出手腕が光る、娯楽サスペンスとしての充実ぶりだ。現代のFSXを多用する緻密さやリアルさとは比べようもないが、日本映画斜陽期の低予算プログラムピクチャーの緩さが、巨費を投じた大作には出せない「生身の切なさ」を醸し出している。

たとえば、同時代の日活の『女囚サソリ』シリーズに込められた抑圧と反逆の闇、『野良猫ロック』シリーズが発散していた無軌道な暴走願望、さらに言えば若松孝二が模索したテロリズムの可能性と限界性といった、ギラギラした生の情念がスクリーンに炸裂するこんな怪作が東宝作品にもあったのだ。

この作品が45年に渡ってほとんど映画ファンの目に触れていないとう驚きと悲劇。もしも、予定どおり1972年に公開されていたなら、日本映画史に新たな1ページが加えられていたことは確実だろう。

時代の「奥底から放たれる光」を、あまりにも真正面からまともに反射させた作品は、その「反射光」に耐えきれない者にとっては不穏な異物以外の何物でもない。「反射光」に耐えきれない者とは、その時代の安定をむさぼり、時代の「奥底」にフタをして光を封印している者たちに他ならない。だから彼らは、未公開という最も卑近な方法で「この映画」を大衆の目に触れないように隔離したのだ。

(評価:★5)

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