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[コメント] マンチェスター・バイ・ザ・シー(2016/米)

与えられた仕事はこなすが向上心はない。不愛想で付き合いが悪く、バーではひとり酒に酔い、部屋でたれ流さるスポーツ中継に向ける目は虚ろ。始末の悪いことに意味不明の“怒り”を他人に向けて爆発させる。私たちはきっと、彼を得体の知れない変人だと遠ざける。
ぽんしゅう

そんな男の話しだ。底の見えない深い悲しみと、どこにも出口のない後悔のなか、自分に向けられた怒りは行き場をなくし、溜りにたまって爆発する。社会から不適合の烙印を押されることを甘んじて受け入れてもなお、安らぎを得ることのできない人生。私のとなりの「得体の知れない変人」の心のなかを、私は今まで想像したことがなかった。とはいえ、想像してみたところで、それはただの想像でしかないのだ。この現実が、最も悲しいことなのかもしれない。誰も男を救うことができない、のかもしれない。

ほんの少しだけ、リー(ケイシー・アフレック)の心に変化があったようにも、なかったようにも見えた。もしも、何か変化があったとしたら、それは甥パトリック(ルーカス・ヘッジス)の、葬儀や転居や船やガールフレンドをめぐる奔放で無遠慮な言動が遠因なのかもしれない。パトリックは周囲に気配りなどしない。自分のことを第一に考えて主張を曲げようとしない。それは、16歳の少年の未熟さのせいだろう。未熟さとは純粋さの証しでもある。リーもかつては奔放な男だった。リーが失ってしまったのは、自分を肯定できる純粋さに他ならないのだから。

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