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[コメント] ドリーム(2016/米)

人生や社会経験で染みついた偏見は習慣化することで“悪気ない”というベールをまとう。最先端の合理的科学集団NASAですらこの体たらくよ、とタラジ・P・ヘンソンのメガネ越しの困惑まなこ顔が、自称「偏見なんかない人」の偏見をあぶり出すエンタメ快作。
ぽんしゅう

女性のキャリアを阻む障壁を「ガラスの天井(glass ceiling)」と言うそうだが、キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)たちの頭上のガラスは、女性にプラスして有色人種という分厚い二枚重ねだ。

しかも、天井を作る側は、そのことに気づいていない。白人男性たちは、キャサリンが就業中に何度も離席を余儀なくされる理由に気づかないし、職場のコーヒーメーカーを使わせないことに何の疑問もいだいていない。さらに、彼女に好意をよせる黒人の軍人ジム(マハーシャラルハズバズ・アリ)は、女が宇宙開発の仕事をするなんてと、当然のごとく“女性らしさ”という尺度を口にする。

あからさまな悪意に満ちた偏見や差別に対してなら即座に反論できるかもしれない。だが、上司と部下、顧客と売り手といった合理的な力関係のなかで、生活習慣化してしまった無意識の差別的な言動に対して正面から「ノー」というのはとても難しい。

厄介なことに、そんな“悪気のない”言動こそがガラスの天井の正体であり、蓄積され潜在化した偏見や差別は、たとえば自らの優位性が保てなくなったようなとき、むくむくとカタチを成して社会のあちこちに顔を出す。そして、いつのまにか何事もなかったように人々の心の奥底へ潜伏してしまう。人は自分の感情の揺れに無防備であり、正直であり、無力でダメな存在なのだ。

有無を言わさぬ圧倒的な実力や才能を見せつけられたとき、人は心の底に巣くう偏見の存在に気づきダメな自分を自覚する。あなたも、私もダメな存在なのだ。その意味において、3人の女性の定型的なサクセス美談を装いつつ、「お前のことだよ!自覚しろ!」と挑発するこの“しなやかな告発映画”の意義を、私は支持する。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)シーチキン[*]

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