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[コメント] ROMA/ローマ(2018/メキシコ=米)

計算されつくしたロングテイクの“閉塞(滲む天窓に飛行機が一機)”で幕が開き、ふいの地異に見舞われようと、時代の渦に巻き込まれようと、思わぬ裏切りに合おうと、天空に昇華するようなラストショットの“開放(空に飛行機が三機)”で一家の物語は幕を閉じる。
ぽんしゅう

そこに立ち上がるのはアルフォンソ・キュアロンの「女性」への敬意と畏怖だ。思えば『トゥモロー・ワールド』(06)や『ゼロ・グラビティ』(13)も女性礼賛の物語だった。杓子定規なほどに几帳面な画づくりと相まって、もはや「キュアロンはマザコンである」と断定しても問題ないのではないでしょうか。

強固そうな門に閉ざされ、地下空間のような車庫のある檻めいた家。窮屈な車庫入れの手に汗握る緊迫感(そして売り払われる傷だらけのギャラクシー(キャデラック))。複数の籠の中のつがいの小鳥。家の外に出ることのない犬のジャンプ。街を行く行商人(成瀬巳喜男みたい!)の売り声。などなど。象徴的な反復が、これでもかと意図的に、しかし、いかにも自然な日常の風景として描かれる。

なかでも「喜/開放/生」と「哀/閉鎖/死」を往還するパノラマのような横移動のロングショットが印象的かつ象徴的だった。「喜/開放/生」の横移動は、映画デートに出かけるクレオ(ヤリッツァ・アパラシオ)と同僚が、嬉々として街中を行くさまを捕えた「右から左へ」の長回し。そして、アントニオ一家が映画(『宇宙からの脱出』)を観に行くようすも同じ構図の「右から左へ」の軽快な横移動で描かれる。

一方、怒涛の波が押し寄せる圧巻の海岸シーンの事件は「哀/閉鎖/死」を象徴するように逆の「左から右」へ凝視するような横移動で描かれる。その長い長いショットは館内を揺るがすような轟音と相まって圧巻のサスペンスを強要し、私は震え上がるほどの恐怖と緊張にさらされた。おそらく潜在的に脳裏に焼きつけられた「喜/開放/生」と逆方向にひきずられる恐怖が、私の感情を昂ぶらせたのだと、思う。

余談ですが、犬のはく製の異様さには驚きました。メキシコの風習なのでしょうか。それとも、あの家(先住民のようだ)ならではの逸話でしょうか。あと“19”の次が“30”になる「武道」の号令。あれは撮影に呼んだインストラクターが間違えて覚えてしまった単純な「文化的伝言ゲーム」のミスでしょうか。何だか微笑ましくて・・・笑えました。

もうひとつ蛇足です。Netflixが視聴できないひがみで言うのではないですが、この寸分まで作りこまれたアート的モノクロ映像と臨場感に満ちた立体音響の“産物”は、それなりの上映環境で観た方が良い(良かった!)と思いました。蛇足ついでに『ゼロ・グラビティ』だってノン3Dの小さな画面で見たら別物でしょ。キュアロンって、そういう映像作家だと思うんです。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)プロキオン14[*] けにろん[*] まー[*] ペペロンチーノ[*]

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