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[コメント] チワワちゃん(2019/日)

あたかも虚構のような現実を、現実として描くには、出来事の流れを無視して“瞬間”の集積を描いた方が説得力があるのかもしれない。このスピードにまかせ、虚飾の断片を寄せ集めただけにみえるPVのような映像は、確かにきっちりと物語を語るだけの力を持っている。
ぽんしゅう

それは、切り取られ、早送りされるように回想される若者たちの事象の“瞬間”が“確かに存在した“時間”として描かれているからだ。

一見、斬新な作風に見えながら根幹は、あの『羅生門』に代表されるオーソドックスな手法のこの映画は、その古典的な手法が導くお約束の結論に安易に依存したりしない。物語は、今まで手を変え品を変えて語りつくされた「真実は誰にも分からい」といった人間の不可視性や、「真実はひとつではない」といった物事の多義性になどには、一切関心がないようだ。行きつくのは“真実の不思議”などではなく「真実なんてどうでもいい」という、本能として生きものが最優先する刹那性だ。

チワワちゃんと呼ばれる娘に人間的な欲望や打算は皆無だ。あるのは“瞬間”を積み重ねながら“瞬間”を生きている刹那の懸命さだ。誰にでも尻尾をふり取り入ってしまうチワワは、意義どおり人間の不思議などではなく、動物の本能を生きていたのだろう。おそらく岡崎京子の原作にも流れているのだろう、この刹那性を「今」の“瞬間”映像の集積に置き換えて抽出してみせた二宮健という映像作家の、これもまた本能のような資質が面白い。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)disjunctive[*] 水那岐[*] けにろん[*]

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