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[コメント] グリーンブック(2018/米)

対照的なキャラクターを達者な俳優が上手にこなし、散りばめられた伏線も“そうだよね”と綺麗に回収され、伝統や掟として見過ごされる差別や偏見の根深さもしっかり指摘して、この人情ドラマは収まるべき結論に丸く収まる。なんて分かり易い良い映画だろう。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







そう呟きながら、みんな安心して映画館を後にする。そして、何ごともなかったように“世間”のなかに潜り込む。分かり易いということは、確かにひとつの美徳ではありますが、決して“世間”は分かり易くなどありません。それは“世間”が無数の「私」によって成り立っているからです。

性善説を信じて“みんな”でそろって頑張るよりも、性悪説から逃げずに“一人ひとり”が自分を戒めないと、差別や偏見はなかなか減らないはずだと、ちょっと気を緩めると心の奥底に巣くった差別意識や偏見が、すぐに頭をもたげてしまう「私」を、私は戒めています。コトを丸く収めることに意義を見出す映画よりも、コトを荒立てるのが映画の意義だと思うのです。

そう書くと、ひたすら深刻な映画ならいいのかと誤解されそうですが、私は、同じ差別と偏見を描いても、過去の悲劇を現在の不幸に重ねて嘆いてみせる『デトロイト』(キャスリン・ビグロー)は好きではありません。現在の不幸は過去の悲劇を克服する過程だと戒める『ドリーム』(セオドア・メルフィ)の方が“現在”に対して建設的なぶん断然好きです。

この「グリーンブック」は、そのどちらでもなく、ただ安心したいだけのように見えます。「みんな」がこうあって欲しいという願望を描いて得た安心に実態などあるのでしょうか。みんなのことではなく「私」を主語にした感想が浮かばない限り、私のなかの差別心や偏見を減らす(無くすなんておこがましい)ことはできないと思うのです。

たぶんこの映画に力がないのは“現在”と“私”という視点が欠落しているからだと思います。

(評価:★3)

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