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[コメント] 家族を想うとき(2019/英=仏=ベルギー)

効率は時間を利潤に変えるが、無駄は時間を自由に変える。だから時間を独占する者が現れれば、残された者は利潤も自由も奪われる。彼らは蟻地獄に気づかずもがく蟻だ。あまりに救いのない“事実”を見せつけられ、じゃあどうすればいいんだという絶望だけが残る。
ぽんしゅう

観終わって直後の、そんな自分の感想にどこか違和を感じた。原題が「Sorry We Missed You」だと知った。「家族を想うとき」というこの優しい邦題によるミスリードが原因だと気づいた。この物語は、家族を想うあまり律儀なリッキーは「こんなことに」なってしまいましたという転落話しではないのだ。

「Sorry We Missed You」は、宅配の不在連絡票に印刷されている“すみません。あなたに会えませんでした”という決まり文句だそうだ。直訳すると“ごめんね。私たちはあなたを見過ごしていた”だ。日本語は主語を省略してしまうから気づきにくいが、ケン・ローチが最も伝えたかったのは「sorry」という謝罪とともに「We」という当事者意識なのだ思う。ローチは、彼らの現実を見て見ぬふりをする私(我々/We)に猛省を促すためにこの“事実”をわざわざ再現したのだ。

私が本作を観て気が重くなったのは、本当はここに提示された“事実”に気づいているくせに「じゃあどうすればいいんだ」とい絶望を装って、そこから逃げようとしてる後ろめたささに違いない。なんとか自分だけは蟻地獄に落ちずに(彼らを視界の隅に追いやって)自分の生活を守ろうとしている私の逃げは「こんなことに」なってもなおも職場へ向かおうとするリッキーに封じ込まれる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ペペロンチーノ[*] けにろん[*] jollyjoker[*] 死ぬまでシネマ[*] シーチキン[*]

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