[コメント] 狼をさがして(2020/韓国)
その間に私は大学受験に失敗し、高校を卒業し、もう一年大嫌いだった受験勉強に没頭せざるを得ない状況に陥っていた。だから一連の事件の詳細は途中から曖昧になっている。同時代に起きた連合赤軍関連の事件に比べても、その後「東アジア反日武装戦線」の“彼/彼女”のことが社会的に語られる機会は少なかったように思う。
そんな45年も前の事件が、当時10歳ほどだった韓国人監督によって映画化されたと聞いてい観に行った。キム・ミレ監督ら韓国人にとって、戦争加害者であるはずの日本人のなかに「反日」を唱えて東アジア諸国のために闘った若者たちがいたことが驚きで映画化を思いたったのだそうだ。
45年の時を経て、隣国から「日本のテロリスト」に対してどんなアプローチがされるのだろかと興味津々だった。結果は拍子抜けだった。事件の主犯者である死刑囚、大道寺将司の証言を得ることはかなわず、その周りの人々の活動や発言で映画は構成されていく。どの話からも(もちろん簡単なことではないのだが)核心の気配さえ見えない。しかも、大道寺は2017年に獄中で病死してしまう。せめて爆破事件の被害関係者に会って話を聞くことはできなかったのだろうか。これでは、誰も何も語っていないに等しいと思った。
もっとも、“彼/彼女ら”を(事実そうなのだが)無謀なテロ集団と決めつけて、言い分など聞く必要はないと無視し、戦後の社会運動史から抹消してしまったのは私たちなのだが。本来なら“彼/彼女ら”が何者だったのかを「探り、考え、知る責任」は私たち(日本人)の側にあるはずだ。それを棚に上げて、このドキュメンタリー映画の「足りなさ」を批判する気にはなれない。もっと早く日本人が撮るべき課題だったと悔やまれる。
大道寺将司は獄中で句集を編んだそうだ。爆弾テロによる死傷者を思い大道寺が詠んだという句を掲示しておくことにします。
いなびかりせんなき悔いのまた溢る
死者たちに如何にして詫ぶ赤とんぼ
春雷に死者たちの声重なれり
死は罪の償ひなるや金亀子
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