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[コメント] きみが死んだあとで(2021/日)

構成はシンプルだ。複数の個人が自分のことを語るだけだ。みな70歳以上。語られるのは主義や主張ではない。告発も問題提起もない。だが、そのときの思いや行動、書き残された言葉、その筆跡、古びた白黒写真から、どうしようもない熱量と真摯さが伝わってくる。
ぽんしゅう

彼らの語りから浮かぶのは“あのとき”の10代の青年たちなら、誰もが少なからず世界に対して抱いたであろう“青い熱”が、摩擦し合い、発火し、時代の風に煽られて、燃え広がるさまだ。

燃え上がった炎の勢いに、ある者は調子づき、ある者は戸惑い、自負とも後悔ともとれる思いが語られる。ああ、これは“あのとき”から50余年遅れの青春映画なのだ、と気づく。

代島治彦監督の前作『三里塚のイカロス』(2017)では、彼らの末裔が行きついた先の“悔い改めきれないくすぶり”が浮き彫りにされていた。本作は、彼らがたどることになる疾走と迷走の“発火点”の記録として前作と対をなしている。

そこにあるのは古くは『日本の夜と霧』(1960)や、記憶に新しくは『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2007)でも描かれた、社会に対峙し行動しようとる者たちが必ず陥る「個人」と「組織」の相容れなさという難題だ。

(評価:★4)

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