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[コメント] 由宇子の天秤(2020/日)

正論を吐く者に向かって「正義面(づら)」という言葉を浴びせるとき、人は快感を覚える。他人の嘘臭さに乗じて、私は“そんなこと”で嘘はつない、と自分についた嘘を“そのとき”の勢いで正当化できるからだ。きっと「正義」ほど人と相性の悪いものはないのだろう。
ぽんしゅう

正義というよりは、これは嘘についてのとても真摯な話しだ。人は嘘をついた方が得なのだ。だっていちばん惨めな思いをしたのは、何も知らない(知らされない)萌(河合優実)の父親(梅田誠弘)だったのだから。そして、この父親の対極に存在するのがテレビ局のプロデューサーたちだ。

この由宇子(瀧内公美)という女の我の強さを思えば、きっとまた切羽詰まったときは、なんとか自分を正当化する理屈を捻りだし、嘘を「嘘」と気づかぬうちに嘘をつくだろう。とても人間らしい「素直な人」なのだと思う。あのラストシーンを観ながら、そんなことを考えた。

全篇、ほぼ自然光の手持ちカメラで撮影されているようだ。エンタメ志向の作りもの感を嫌っての演出手法だろう。ある種の緊張感は持続するのだが、あまりに生真面目すぎて映画としての面白みを感じなかった。創作の放棄にも感じてしまう。あと、どこかダルデンヌ兄弟の作品を彷彿とさせるのだが、私は彼らの映画がちょっと苦手だ。これも相性の問題ですが。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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