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[コメント] 牛久(2021/日)

6つの種類の映像で構成される。入手可能な限られた映像を駆使したらこうなったのだろう。だから素材映像や編集にほとんど作為を感じない。そのぶん見る者に有無を言わせない。この画力(えぢから)は偶然かもしれないが、嘘のない告発力は必然だ。私は強く動揺した。
ぽんしゅう

6つの映像とは、(1)収容者と正面から対峙させられる面会室の隠し撮り映像(黒枠を付けてフレームを小さくし圧迫感を出す演出 あり?)(2)不当な規制により生じた音声のみの完全ブラックアウト映像 (3)裁判用に開示された、職員が収容者を(暴力で)制圧する公式な記録映像 (4)トーマス・アッシュ監督らの国会議員への陳情と打ち合わせシーン(数少ない意図を持った撮影映像) (5)テレビ放送の中継映像らしき当該議員と法務大臣の質疑応答シーン (6)コロナ禍がもたらした皮肉な結末としての屋外映像と(作者の控えめだが確かな意図を感じる)インタビューの以上だ。

(4)と(6)以外は、撮影者が作為をもって撮ったのではなく、向けられたカメラに写った事実と、その状況を裏付ける人々の声だ。(4)にしても作者らの行動を客観的に撮っただけの風景映像であり、唯一(6)に「この事実」は現在も進行中です、という念押しの意思が入るだけだ。私には、この87分の映画が提示した事実に疑義を挟む余地はなかった。

「牛久」に収容された人々は強制帰国を受け入れない限り無期限に拘束生活を強いられる。彼らは自らの命を賭けてハンガーストライキを決行する。所内で死なれては困るため、入管側は二週間という期限を付けて、心身が衰弱した彼らを「仮放免」という奇策を呈して出所させる。その間の移動や就労は禁止され、期限が来ると再び収容してしまう。収容者たちはこれを数年に渡り繰り返し、やがて肉体や精神を病んでいく。これは、故国に帰らない(帰れない)者に対して、日本(つまり私たち)が課している"密かな拷問制度"ではないのか。

上映後、トーマス・アッシュ監督への質疑応答の機会が設けられた。印象的なやりとりを二件記しておく。

□Q.隠し撮りという手法に問題はないのか  A→施設内の撮影は法律で禁止されているわけではありません。入管の規則(ルール)として設けられているだけです。私が子供のころには、まだアメリカには黒人は出入り禁止というルールの施設がありました。世の中には守ってはいけないルールだってあるのではないでしょうか。

□Q.私(観客)にも何かできることはないか  A→この映画は現状を記録に残して多くの人に知ってもらい行動を起こしてもらうために撮りました。入管の問題を解決するためには法律の改正が必要です。残念ながら私には投票権がない。だから皆さん(日本人)には、まずすぐに"出来ること"を実践して欲しいのです。

映画の目的は思想の拡散といった抽象ではなく、具体的な人道の実践の要請にあるということだ。こんなに直截に「純粋な手段」として社会運動の発動を訴える映画を見てしまった私は、いま日本人としての責任を重く感じている。

最後に映画館の出口で監督自ら配った「難民・入管問題に対して、いま私たちにできること」と題された手作りチラシに記された行動要請と、そのURLを転記しておきます。■https://www.ushikufilm.com/action/

■発信・・SNSで感想や意見を発信する https://twitter.com/ushikufilm

■知る・・イベントや勉強会に参加する https://docs.google.com/spreadsheets/u/0/d/1YN_LgmYT-qGvdVOCwoMIC_59Y_KMsbBUg6cmpzYP-7s/htmlview

■投票・・投票に行き意思表示をする https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2021/10/election21_1/

■支援・・支援団体の取り組みに参加する https://docs.google.com/spreadsheets/u/0/d/1YN_LgmYT-qGvdVOCwoMIC_59Y_KMsbBUg6cmpzYP-7s/htmlview

2022年4月2日記

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)DSCH 寒山拾得 ペンクロフ[*]

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