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[コメント] 東京2020オリンピックSIDE:A(2022/日)

あまりにも散漫な印象。そもそも河瀬直美監督はロジカルな作風ではないので、ありきたりの記録映画は作らないだろうし、そんなものは期待していなかったのですが、失礼ながらこれはただフィルムをつないだだけ。何を目指しているのかよく分かりませんでした。
ぽんしゅう

映画は、河瀬監督らしい自然と人との瑞々しいコラージュに始まり、歓喜から戸惑い、騒然から強行へと大会開催まで変転する世情が手際よく描かれ始まります。プロローグとしてここまでの語り口は上々。まあ、ことの良し悪しには触れませんが「君が代」の扱には度肝を抜かれましたが。

そして選手たちのエピソードが始まります。

〔ご注意〕 この後、●印でエピソードを列記しますが、この内容はほとんど事前に告知(宣伝)されていません。だからこれがネタバレかどうか(私は違うと思うのですが)判断がつきません。すみませんがここは自己判断でよろしくお願いします。読みたくない方は「印象(1)」のところまでジャンプしてくださいね。

2時間の映画にしては選手のエピソードはかなり多い。備忘録を兼ねて記憶をたよりに順不同で列記するので抜けてる可能性もあります。

(男性選手が主体のエピソード) ●幼い頃にコーチの兄とともにボートピープルとして海を渡ったシリア難民のトライアスロン選手●イスラエルへの対応を非難され国籍を変えた元イランの柔道家(何故か本作では「選手」ではなく「家」と呼ばれる)●島の伝統と老人たちの期待を背負った沖縄出身の空手選出と説明もなく唐突に登場するその母親●サーフィン選手たちは大自然の象徴としての海とともにポエティックにイメージフィルム風な扱い●相変わらず勝ち負けにこだわる柔道連盟会長にしてJOC会長の山下さんと、現役時代の井上監督との因縁を語るコーチらの大時代的な言動は、その重圧を一身に背負かのように喜怒哀楽を捨て表情を消し去った大野選手と、フランスに惨敗する混合団体戦の日本チームに投影される。このパートは他に比べて丁寧かつ異質な趣で描かれる。

(女性選手が主体のエピソード) ●母乳育児にこだわり赤ちゃん連れで参加したカナダのバスケ選出と“だっこ紐姿”で彼女を献身的に支える夫●そのカナダ選出と対照的に描かれる出産のために五輪代表をあきらめた日本人バスケ選出●さらにバスケット日本女子チームの活躍は、チームワークの大切さを説く外国人男性監督を中心にたっぷりと時間をかけて描かれる。河瀬監督は女子バスケWリーグの会長だそうだ・・・●ケニア(米国だったかも?)のマラソン選手も献身的な夫が付きそう子連れ参加●さらにもひとつ、夫と二人三脚で子育てしているアメリカの陸上長距離選出(このあたりの子連れエピソードはごっちゃになってるかも)●少女のころから先達メダリストに憧れ、悩みつつも競技と勉学を両立させるアメリカのアフリカ系陸上短距離選手●BLMの闘士として発言を続けレイスストたちの誹謗を受けながらも国の代表として戦うアメリカのハンマー投げ選出とその男性コーチ●和気あいあいでプレーを楽しむスケボー少女たちは40代のオジサン選手と対比して描かれる●ソ連時代のウズベキスタン出身で、10代から活躍し国籍を変えながらメダルを獲得してきた40代の体操選出●大会ごとに競技の公認/未公認問題にさらされてきたソフトボールのアメリカと日本チームのライバルたち

以上

印象(1)・・なんだか男性よりの女性の扱い比重が重い気がする。そして女性のエピソードは男性がからむものが多い。この男女の構成は何か企みをもった意図的な選択なのだろうか。よく分からない。

印象(2)・・個別のエピソードで言いたことは分からなくないのだが、どれも言葉(描写)足らず。時間が足りないのか、あえて語らないのか、上手く語れないのか。2時間にこの量を詰め込んだのは致命的。

印象(3)・・そんな言葉(描写)足らずのエピソードがとりとめなく登場するので作品総体が目指すものが見えてこない。多めに扱われるソフトボール、柔道、女子バスケチームの話は他の話とテーマの整合がない。なんかへん。政治的な大人の事情が臭う。

こんなふうにジェンダーや国家/国籍や人種差別といったレッテルを貼って私がエピソードを要約したがるのは、オリンピックを今までと同じ既存の価値感の枠に矮小化してしまうことであり、そのこと自体を河瀬監督は拒否しているのかもしれない・・・と一応書いておきます。

結論:だとすると作家と鑑賞者の良好な関係を本作に求めるのは、私にはちょと無理。

(評価:★2)

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