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[コメント] 嘆きの天使(1930/独)

授業まえに必ず鼻をかむ無粋に気づかず、生徒の顰蹙と蔑みの視線を薄々感じつつ、八つ当たり的厳しさでコンプレックスを癒す威厳なき裸の権威主義男は、艶麗な罠に自ら進んで堕ちた。何故なら男は小鳥のさえずりに心和ませる優しく無防備な男でもあったから。
ぽんしゅう

冒頭のラート(エミール・ヤニングス)の口笛と声なき小鳥の挿話が彼の運命の総てを象徴する。以後、教師ラートは音(歌曲=和みや娯楽)と遮断された状態としてディフルメされ描かれる。彼の心から“安らぎ”が消えたのだ。

ラートが踊り子ローラ(マレーネ・ディートリッヒ)の写真を見つけた教室のシーンでは、窓を開けた瞬間に女学生の合唱が聴こえ、窓が閉じれるとともに歌声は聴こえなくなる。さらにローラの楽屋では、扉が開くと舞台の歌曲が部屋に流れ込み、閉じられると歌も音楽もピタリと遮断されてしまう。この扉の開閉と歌曲の流入/遮断は繰り返し執拗に描かれる。ローラの魅力に揺さぶられるラートの心の象徴なのだろう。

そして、ラートがローラと初めての朝を向かえたとき、二人の部屋は小鳥のさえずりに満たされる。ついにラートは“安らぎ”をとり戻したのだ。そして、芸人たちに祝福される宴のなかラートの幸福は絶頂に達し、おどけて雄鶏の鳴きまねに興じてみせる。数年後、その鳴き声が喘ぐような「泣き声」に変わることも知らずに。

男の心情と運命を音声演出に託した、トーキー初期らしい実に巧みな「音」の映画だった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)青山実花[*] ゑぎ[*]

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