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[コメント] 海を飛ぶ夢(2004/スペイン)

この世に生まれ落ちた以上、誰もが独りで生きていく事は出来ません。元来、独りでは生きていけない構造で出来ている「人間」が「自分の為だけに生きる(死ぬ)」という事。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ラモンが四肢麻痺状態で過ごした28年間の苦悩は計り知れないものがあります。でも私は彼に同情したくありません。ラモンは四肢麻痺に侵されていたって「人」である事は他の誰とも変わらないのだから。ラモンは他の人たちに比べれば体の自由がきかない分、「生きる」事が不自由だと言えるかも知れませんが、だからと言って私たちと比べて劣っている訳ではないし、勝っている訳でもない。対等な立場だと私は思います。

勇気を出して言います。私には「ラモン」という人物はとても傲慢な人に映りました。自分の兄やロサなど、自分に対し「生きろ」という人を敬遠する。尊厳死を主張しているのだから当たり前だとは思います。人は誰かの為に生きている訳ではない、自分の為に生きている。それもよく分かります。でもロサのラモンに対する「愛」を「自分の死を願ってくれる事が愛」だと言い、それをロサに押し付ける。「愛」とは与えるものであり、与えられるものではないと考える私にはラモンはとても利己的で自己中心的に思えました。ロサの愛を無理に変形させる権利がラモンにあるのででしょうか?死にたいラモンに生きろというロサの気持ちは彼女の単なるエゴなのでしょうか?だったらラモンに生きてほしいと願うロサの気持ちを変形させて利用する事はエゴではないのですか?(最終的に決断したのはロサ本人ですが「自分の死を願ってくれる事が愛」だと言った以上、それを促したのは事実だと思います。)確かに病に苦しんでいるのはラモン本人です。でも周囲の人の苦しみをラモンは見つめようとしません。ハビに対しても何もかもが命令口調だし、時折見下したような物言いをする。そこもとても気になりました。

最期の姿を収めた映像も意味が分かりません。あれを観た時の遺族の気持ちをラモンは考えなかったのでしょうか。意図が理解できない私は非道な人間なのかも知れません。頭が混乱して何もかも分からなくなってきました・・・。観ている間中ものすごく考えさせられると同時にどこか隅っこの方で常に不協和音を感じてしまう。そんな隅っこに巣食う感情で自分は最悪の人間なのかも知れないと自己嫌悪する。ラモンの気持ちを慮る事が出来ず、残される人のこれからの事ばかり考えてしまう。

それともラモンは自分の為でなく、誰かの為に「死」を選んだのでしょうか。

尊厳死について私は何も意見出来ません。ラモンが選んだ道も否定はしません。でもラモンが「死」に向かう為に生きた28年と数ヶ月を私は素直に受け入れる事が出来ません。私は心の狭い人間です。

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06.07.05 記

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus ジェリー[*] mal

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