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[コメント] 東京物語(1953/日)

虚しくも輝かしい人生賛歌。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最近モノクロの昔臭い映画ばかりを見てウハウハ喜んでいる私を見て、うちの母親がものすごく気持ち悪がるんです。「アンタって本当に気持ち悪い!」って実の娘に言うんです。そんな母親が珍しく私に映画を薦めてきた。それがこの『東京物語』です。しかも、本当に最低の映画だから見てみろと。そう言うんです。小津安二郎という人をよく知らない私でも、この作品が小津最高傑作だという事は聞き及んでます。それを最低の映画と言い切る母親は何なのだと。そう思い、恐る恐る鑑賞。

・・・もうダーダー号泣。

しかも泣き出してからラストまでが長いのなんのって(翌朝目がぽんぽこりんで起きてきた私を見て「うわ!なんやその顔!」とまた悪態をつく母親。「いや、昨日東京物語見たらもう泣けて泣けて…」という私に「え、どこで泣くん?」とまた気持ち悪がる母親)。

なんなんだろ。例えば川島雄三の目線は諦観。物悲しさというか、負の空気が纏わりついてるんだけど、小津安二郎はもっともっとフラット。達観。当然力強さもなければ、諦めといったものも存在しない。そう言ったフラットな中に、京子(香川京子)や紀子(原節子)といった存在を置いて、作品に起伏を持たせるところなんかは凄いなーと思いました。

今の私は紀子に片足を突っ込んだ京子です。そしてこれを薦めてくれた母は、京子の思いを捨てきれない尾道の母親(東山千栄子)なんだと思います。私も自分の母親のように、京子の思いを持ち続けたまま尾道の母親にまで辿り着きたい。実の子供達(特に杉村春子)なんてものを経由する事なく、尾道の母親に辿り着きたい。

でもきっとみんなそう思って、思い続けて、それでもやっぱり程度は違えど、少なからず実の子供達という道を通りつつ、尾道の両親の立場に行き着くんじゃないでしょうか。そう思わせてしまう小津監督を憎くも感じるんですが、やっぱりきっとそれは真実なんだと思う。

悲しくて涙が出たんじゃないんです。虚しかった。本当に虚しくて涙が出た。それでも人生って悪くないじゃん。て思えてしまうんだから余計に涙が止まらなかったんです。虚しくも輝かしい人生賛歌!

私の事を気持ち悪いという母が薦めてくれた映画として、私はこの作品を一生忘れません。お母さん、サンキュー!

ちなみにそんな母親に教わった事。誰かが亡くなった時に号泣している人がいたら、その人は亡くなった人に対し何か後悔の念を持っているのだと。自分の母親が亡くなった時に呆然としながらもあまり泣かなかった母親を思い出したし、この作品で火が点いたように突然号泣し出す長女の事も思い出しました。そういや京子もそんなに泣いていなかった。

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08.08.18 記

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)林田乃丞[*] ぽんしゅう[*] ジェリー[*] セント[*] りかちゅ[*]

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