コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] いつか読書する日(2004/日)

文学的秀作。いくつかの不満。
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭の作文から本棚の描写まで、これは文学の映画だと思った。文学を扱った映画ではなく、映画の作りが文学なのだ。ラストの岸部一徳が溺死するところに象徴的に現れている。なぜあの時間に少年が川に入るのか。唐突と言えば唐突である。30年の思いを遂げた翌朝、降りしきる雨の中で男は「すてきな人でしたね」と言われるような死を迎えなければならない。こういう物語の運びが文学であろう。

牛乳の使い方が大変うまい。日常生活の些末な事柄にリアリティと象徴的な意味の両方を持たせて不自然でない。この監督は前作より確実にうまくなった。田中裕子萌え。いったん引いた口紅をぬぐい去る時の表情。うまい。細部にわたって手を抜いていない。岸部が手を付けない牛乳を持ち帰り配達屋で田中が飲むシーンがある。飲み終わってその牛乳瓶をホースの水で洗う。その時、ホースの水が空のびんに入って行く時の高くなる音階がかすかに聞こえる。こういった細かなところにも手を抜かない製作態度が、この文学的な映画に映画的なリアリティを与えている。

ところで、スーパーの休み時間に田中裕子が店の裏手で柔軟体操をやる。それが牛乳配達とスーパー店員のおばさんの柔軟ではない。鍛えぬかれた女優の身のこなしである。うますぎて違和感。違和感と言えば、岸部の激情も私にはすんなりと飲み込めなかった。放置虐待の子供の母親に対して激した後、車の中で泣くのである。そこには自分の愛欲に子供を顧みなかった大場美奈子の母親に対する抗議が含まれている、と文学的に解釈できるが、そこはやはり映画的に納得できるような描写が欲しかった。

坂の多いロケーションは必然性があって成功している。どこか、ずっと気になっていたが最後にクレジットで長崎とわかった。それまで隠し通しているのもうまい。いずれにせよ、久々に見た日本映画の佳作であることは間違いない。シネスケのコメントを読んで見る気になった。こちらもさすがと言うほかない。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)chokobo[*] くたー[*] トシ セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。