コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 洲崎パラダイス 赤信号(1956/日)

たいした話じゃない。だが・・・・個人的な思い入れで5点!
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まず時代。売春禁止法は昭和33年。当時小学校3年生の私はその新聞記事を覚えている。赤線廃止法案というふれこみ。この作品はその2年前に作られている。あの千草の子供たちは当時の私と同じ年齢となる。店の内部から道路を行く車から都電の線路、電気街神田の描写(店の前に積んである真空管式ラジオ!)工事現場の歩道の敷石、そば屋の店内・・・何から何まで感動もの。懐かしいという感情とは少し違う。しばらく忘れていた確かなものに出会って、とまどっている印象がある。そして変にドキドキしている。

そして場所。この作品はレンタル化されていない。日活名匠シリーズとして1999年に発売されている。それを送ってくれたN氏と共に州崎パラダイスのロケハンにいった。当時の面影はほとんどないが橋のロケーションはもちろんそのまま。道路の感じや店の感じもどこか昭和30年代を残している。この映画の場所の選定がうまい。橋の中と外の分岐点を舞台に男と女のドラマが語られる。

そして、女心。色男、金と力はなかりけり、というが三橋達也演じる義治がまた妙にもてる。女にとっては気になってしかたがない。それでいろいろ世話をやく。私にとっては懐かしい情緒である。ダメ男はそれを知っていて、すねた子供のようだ。女優イントネーション、といったせりふ回しが聞かれるのも楽しい。こういう女心は日本的な母性といってもいい。それは今でも流通しているだろうか、と思った。恋愛シュミレーションゲーム、ときめきメモリアルの女の子たちは電話をかけると「あら、どうしたの」という。ああ、ここにあった。この女心の様式はまだまだ安泰らしい。

生活が描かれている。飲み屋、そばや、電気屋のおやじ、きちんと金の出所がはっきりしている。その生活の上に描かれた感情のドラマはささいなことだが、ちゃんとそれに応じたささやかなリアリティをもって伝わってくる。 ダメな男とそれに惹かれる女心の物語が最後まで退屈しないのはそのためである。私はずっとドキドキしながら見ていた。

ラストは「今度はあんたが連れてって」と言う女の手を引いてオープニング同様バスに乗り込む。明るい音楽は2人に希望があるみたいだ。なんの根拠もないのに。ラストは唐突な印象である。橋の上から始まり橋の上で終わるのは、いわばお約束の定番だが、いろいろあったけどなんとかやっていくでしょ、みたいな明るいものはそれまでこの映画のどこにも示されていない。 これがその時代と言うやつだ。このあと高度経済成長が始まり、植木等歌うところの「そのうちなんとか、なーるだろう」という気分につながるのである。当時見れば、このラストにそれほど違和感は感じなかったと思う。

でてくる役者それぞれに人間のリアリティがあり、たいした話じゃないが、充実していた。白黒の画面もすばらしかった。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (17 人)寒山拾得[*] 動物園のクマ[*] moot ぽんしゅう[*] chokobo[*] shiono[*] りかちゅ[*] ドド[*] けにろん[*] sawa:38[*] さいもん[*] Linus[*] tredair[*] [*] ina ボイス母[*] muffler&silencer[消音装置][*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。