コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] タイムマシン(2002/米)

光陰矢のごとし
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







荒唐無稽冒険活劇。

私はリメイクされる前のタイムマシンを42年前に見た。「過去に戻るなら機械はいらない。思い出がある」そう言われれば、思いだそうじゃないの。王子トーコー劇場洋画3本立て小人料金30円。1本10円だよ!併映は妖女ゴーゴン、もう一つは忘れた。片道5円でアキハバラにゲルマラジオの部品を買いに通うガキだった私。このタイムマシンには興奮した。

あの椅子に座りスティックを差し込み前に倒すと未来に行く。手前に引けば過去に戻る。時間旅行である。理系のガキに人間ドラマはわからない。ただただ特撮のすごさに目を見張るばかりだった。コマ落としのアニメーションだったけど、夜と昼がくるくる変わる。ショーウィンドウの服がどんどん替わる。時計の針は狂ったように回転する。映画ってのはこんなに素晴らしいんだ。もう魅了された。例によってノートに下手くそなタイムマシンの絵を描きまくった。明けても暮れてもタイムマシンのことばかり考えていた。ビデオなんてものが無かった時代。映画館で終わってしまえばもう2度と見られない。好きな映画がなんども見られる、なんてことは考えもしない。だからその印象はずっと強く残る。

高校生になるとガモフの1・2・3無限大・・・とか相対性理論とか光より速く進めば時間は戻る、とかそんなことを読んで混乱した。ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」タイムパラドックスのSF古典。これまた興奮した。そんな理系への傾斜はこの映画を見たためかもしれなかった。映画タイムマシンで私の未来は少しは変わったのだ。

だからリメイクが出れば当然見るでしょ。えーこんな映画だったの!という驚き。マシンのデザインが昔の原型を留めていたのはうれしかった。でもあっさり乗りすぎる。もっと理屈蘊蓄のタメがあっておもむろに乗り込み息を詰めて時間旅行のスティックを握る、って感じじゃなかったかなあ。

特撮はCGの進歩で確かに以前よりスケール大きく緻密で何よりスピード感が違った。でも私の頭の中にあるのは、カタカタ情けなく変わる映像。それに愛着がある。

エマはもうチャーミングで「公園を歩きましょ」の繰り返しもいい。子供の時はこんなところは早く終わって特撮シーンにならないか、とイライラしていたから、大人になるのも悪くない。そしたら何だよ! 一度のトライで過去は変えられない、と来る。それでもうヤケになって未来だよ。もちろん、未来に行くのは、過去を変える方法が未来になれば開発されるかも知れない、と考えていたからだ。図書館のシ−ンでそれがわかる。大人の私はよしよし、まだ初心忘れていないな、と思って期待する。途中下車で月が壊れてやばい、手錠もかけられる。その辺のエピソードはほんのおざなりに触れただけで、一気に80万年だよ。

旧作でもモーロックは出てきた。この名前は覚えている。でも暗い洞窟のなかの原始人って感じだったぞ。ウェルズあたりの近代知識人てのは、階級社会の申し子だ。マルクスにしたって社会階級の変革理論である。オーウェルの動物農場。未来社会の人間は階級が分裂固定して人間の形態までも変えてしまう。そんな思想がある。ガキの私はその辺のことは全く記憶にない。ただただ特撮のすばらしさに夢中だった。

後はコメンテータの皆様がreviewに触れているとおりである。細部の詰めもずさんで、ただただSFXのみが残る(と言っても、それも並の出来だけど)作品となった。御都合主義の凡庸なドラマであった。大人の私はSFXだけじゃ満足しない。物語はつまらない。42年前の過去から戻った未来がこれだ。子供時代の私はもう戻ってこない。光陰矢のごとし。昔の光いまいずこ、と愚痴るだけである。

未来に行くのにマシンはいらない。夢があればいい。そう言われてももう今となっては夢は棺桶だけなんだけど。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (16 人)けにろん[*] 緑雨[*] mal ダリア[*] はしぼそがらす[*] ゼロゼロUFO[*] m[*] G31[*] tredair[*] ペンクロフ[*] peacefullife[*] torinoshield[*] トシ[*] kazby[*] uyo[*] らーふる当番[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。