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[コメント] プライベート・ライアン(1998/米)

手持ちカメラ=リアル?確かに映像的にはリアルだけど、逆に不自然にも見える。絶対に弾に当たらない主人公と自分が戦場を駆けるという前半の不思議な戦場疑似体験。
mize

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 冒頭の惨劇が起こってから数分は「わ、こっちにまで弾が当たりそう!」とゾーッ。自分のすぐ横で若い兵士たちが血塗れになって倒れていく。容赦ない銃撃に思わず首をすくめそうになる。いつしか兵士として戦場に実際にいるような錯覚に。自分を指揮するのは大尉の格好をしたおなじみトム・ハンクス(どうしてもミラー大尉じゃなくてトム・ハンクスにしか見えない)。遮るものがないのに、嵐のような銃弾の中をハンクスは勇敢に駆け抜けていく。自動的に自分もユラユラとブレながらついていく。時折チラッと臓物をはみ出させた死体が目に入る。「こんな遮蔽物のない場所に出たら、今度こそ撃たれる!」と足がすくみそうになるけれど、ハンクスとTV放送時に役名と役者名の字幕が出る兵士だけは弾が当たらない事実に気付く。そして自分にも…。身の安全が保証されたあとは、名もない兵士(というかエキストラ)たちのおぞましい死に様を観るだけ。

 リアルというのは必ずしも体感しないと感じないものではないと思う。普通の撮影方法でも十分生々しく感じる事が出来ると思うし、むしろこんなブレブレの一人称カメラよりずっと訴えるものがあると思うのだが…。あたかも一緒に戦場を走る兵士面したカメラだけど、結局ただの傍観者でしかない。体感させる事で戦場の恐怖を教えるなら、本当に死ぬかもしれないという恐怖も与えないと効果がない気がする。そこは観客が想像力で補わないと…というなら、最初から三人称のカメラで見せて観客に「もしあの場にいたら…」と想像させればいいと思う。それにしてもドラマシーンは普通のカメラなのに、後半で銃撃戦が始まるとまたも露骨にブレはじめる(急にカメラが人格を取り戻したようだった)演出には苦笑してしまった。

 『アミスタッド』でも感じた事だけど、音楽が大仰で分かり易すぎる。「ほら感動して〜ほらほら〜」という風に聞こえてきた。カメラの逆で、戦場では沈黙していて、ドラマシーンになると蘇って「ほらほら〜」とくる。もっと控えて欲しかった。

 中盤以降に関しては、脚本の言いたいことが右へ左へとうつろっているようで、冒頭の手ぶれカメラのように車酔いしそうだった。「やれ!ドイツ兵をぶっつぶせ!」と言わんばかりに興奮したかと思うと突然鬱になって「俺達みんな狂ってる…もう誰も殺したくない」とブツブツ呟いて、クライマックスはやっぱり「撃て!やっちまえ!」と興奮して叫んでいる。そして最後は「僕たち幸せに生きています。あなたのおかげで…」と涙ぐむ脚本。ついていけん!と視覚と思考回路を170分間ブラれっぱなしの頭がフラフラした。

 ただ、エキストラたちの演技は良かった。特に冒頭で「ママ!」と泣き叫ぶ兵士の姿は胸に迫っるものがあった。

 どうでもよい事だけど、劇中でライアンが兄との想い出を語るシーン、「超どブスな女と兄貴が車でヤろうとしててさ、俺達“はやまるな!”って叫んだらさ、女が超驚いて壁に激突してやんの、ギャハハ!」とか言うのを聞いて、自分がミラー大尉だったら「こんなヤツのために俺の部下たちは死んだ…」と後悔したと思う。あの想い出話、もっとマシな話考えられなかったのかな。

(評価:★2)

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