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[コメント] Shall we Dance?(2004/米)

ガッカリメイク
ebi

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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皮肉にも原作の素晴らしさを再確認させるリメイク作品だと思った。原作鑑賞済の弊害と言えば、まぁそうだろう。しかしもし、初めて見たのがこのリメイク版だったとしたら...きっとまったく印象に残らない映画だったと思う。

具体的に原作から失われているものは“メリハリ”と“共感”と“品”、そして…

何をあせってるのか(リメイクの気負い?)描写の余裕の無さがやけに目についた。机の下やトイレでうっかり練習...こんな簡単でおいし〜シーンすら十分に活かせてない。展開もだらだら...起承転結が曖昧&不自然でクライマックスへの高揚感が削がれている。競技会での興奮・熱狂や、家族にばれてダンスをやめた時の喪失感がこちらがわに十分伝わってこない。

また、観客にとって“ダンス”は未知のモノであるはず。ダンスとはどういうものか、競技会とはどういうものか、そういった当然必要な説明が全てと言って良いほど端折られている。観客はあくまで観客としてしか立場を許されず置き去り。「Shall We Dance?」というセリフは映画内だけで完結しており、こちらがわに投げかけられていない。原作のように映画が観客にとっての“きっかけ”になりえない。

もっとも文化の違いもあるだろう。日本人と違いアメリカ人はダンスに少なからず馴染みがあるお国柄だと思う(主人公も高校の卒業パーティーで踊ってたという設定)だから観客の予備知識に委ねた...そういう事なら“説明不足”って意味では合点はいく。しかし、だとしたら題材は“ダンス”じゃなくても良かったのではないだろうか。観客にとってダンスが未知のモノでない時点で、題材としては成立しないという致命的な欠陥を見た。

それ以上にひっかかるのは主題だ。リメイク版の主人公は弁護士という社会的成功者の立場であり、誕生日に揃って祝ってもらえる事からも家族から愛され尊敬される存在である。一方、原作の主人公は人生を惰性で送るショボクレサラリーマン。家族はそんな主人公に愛や尊敬どころか、関心すらない。当の本人ですら、自分の人生に関心がないとさえ感じる。一見、同じ境遇に見える二人の主人公は根本的な部分で全く違うのだ。全ては両作品のコピーに集約されてる。前者が「幸せに飽きたら、ダンスを習おう」に対して後者は「もう一度、人生に恋してみよう」貴族の“退屈しのぎの1つ”と庶民の“せめてもの慰み”では、やはり重みや切実さがぜんぜん違う。原作の主人公がダンスを通して夫婦関係も含めた人生そのものを取り戻すのに対し、リメイク版では夫婦の関係を取り繕ってるくらいにしか感じられない。それはジェニファー・ロペスの情熱的なラテン顔やダンスシーンでのエロい肉感、リチャード・ギアの嫌味に感じるほど軽妙なウィットやバラの花を携え妻の職場に登場というキザな振る舞いが、笑えるほど如実に示している。

ぜんぜん別の映画として考えれば、まぁそれでも良いのだが、“原作に忠実”というふれこみなだけに、主題がご都合主義的に差し替えられている事はなんとも残念だった。

(評価:★2)

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