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[コメント] レディ・プレイヤー1(2018/米)

俺? プレイヤー2でいいよ。別に勝たなくても、みんなと一緒にプレイしているこの時間が楽しいんだ。(IMAX鑑賞後に追記)
Orpheus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







’80sの無機質なHi-Fi感を増幅させたようなVR空間をコイン稼ぎのアバターが跋扈する21世紀中葉の世界。映画後半に登場するような昔のゲームは低解像度でデータ容量も小さかったから、プレイヤーの想像力による自己補完やディテールへの偏愛が仮想世界への没入感を高めるために不可欠だった。家ではアタリ、コモドール64、マッキントッシュ、MSX、PC-8801/9801、X1/X68000などのパーソナルコンピューターや、ゲームウォッチ、ファミコン、PCエンジン、メガドライブなどのゲーム機が次々と登場し、マリオやゼルダ、ソニックといったキャラクターが誕生した。外ではアーケードゲームがしのぎを削り、「ギャラガ」「ゼビウス」、「魔界村」「ワルキューレの冒険」などのテーブル型筐体から、「アウトラン」「アフターバーナーII」(映画「ターミネーター2」でジョン・コナーたちもプレイしていた)などの大型筐体を経て、「ストリートファイター」や「鉄拳」といった1P vs 2Pの対戦型ゲームが一世を風靡した。そしてインターネットの普及とともにオンラインゲームが登場すると、自分だけの《セカイ》に安住していた世界中のギークたちは、アバターの仮面や衣装に身を隠し、お互いの《リアル=現実世界》の顔も名前も性別も知らぬままに、他のプレイヤーと同居し始める。やがてスマートフォンやタブレット端末の普及で間口が広がって参入者が増えてくると、オンライン空間におけるプレイヤーのあり方は大きく変化し、仮想空間の中の姿が《リアル》な社会のシミュレーションや縮図になっていく。日々仲間を募ってハンティングに行く者、半年かけてスキルの習得に勤しむ者、露店にアイテムを並べて転売の利ざやでコイン稼ぎをする者。なかには、ただ仲間と話すのが楽しくて何となく毎日ログインしている者(私だ)もいる。そして近い将来、この映画の「オアシス」のような巨大なプラットフォームが誕生した時、IOIのような分かりやすい悪者企業が絡まなくても、それは僕らの「リアル」な世界の側へと確実に侵食してくるに違いない。GoogleやAmazonの専用メガネをかけるだけで、自動翻訳された世界中の言語が飛び交うバーチャルなコミュニケーション空間に瞬時にログインでき、給料の受け取りも支払いも仮想通貨で済ませ、近くを走っている自動運転のタクシーやバスの位置をサーチする世界。こうなってくると学習も仕事もそうしたデバイスが必須だ。政治の介入と法の規制も入るだろうが、その「新世界」を統べるのは、最先端のAIの複合体で、もはや人ではないかもしれない。

良い映画というものは、触発される要素があるかで決まる。上記の「オアシス」もそうだが、この映画でもうひとつ自分が興味深いと思ったのは、人それぞれに思い入れの強いキャラクターやガジェットが一堂に会する後半の戦闘シーンの情報量の過剰さだ。これははたして多様性を謳歌・賛美するものなのか、それとも飽和しているコンテンツビジネスや濫立するエピゴーネンやフォロワーたちへの批判なのか、はたまた一つの作品や一人のヒーローを昔のようにじっくりと味わう/楽しむ余裕が無くなった、われわれ現代人の鑑賞態度の変化に対するスピルバーグ流の皮肉なのか。いずれにせよ、TVやタブレット端末では視認できないような細かいキャラクターをワイドスクリーンの中にぎっしりと詰め込んだ監督の意図は明白だろう。大きなスクリーンで観てこそ、映画というフォーマットは活きるのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)死ぬまでシネマ[*] IN4MATION[*] [*] けにろん[*] ぽんしゅう プロキオン14

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