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[コメント] 1900年(1976/独=仏=伊)

香る華、香る暴力。
Orpheus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「犬なら噛みつけ!」 黒シャツという〈暴力性〉を身にまとうことで台頭した使用人アッティラだが、若き主人アルフレードには頭が上がらない。新妻のアダに侮辱され、業を煮やしたレジーナが言い放ったこの台詞は、〈暴力性〉に満ちた本作の中でもひときわ強烈な印象を残す。レジーナの焚きつけを皮切りに、美少年パトリツィオは柱で頭を叩き割られ、善良なコムニスタ(オルモ)は黒シャツ団の袋叩きにあう。オルモを守れず、沈黙するばかりのアルフレードに失望した友オッタビオは去り、アダも酒に溺れていく。教会と結託するファシストの権力は日に増し、戦況の悪化はコムニスタ狩りを激化させた。日常となった暴力の氾濫を、ベルトリッチは百姓と猫の死体を等価として扱うことであぶり出す。「暴力を許容するもの/許容しないもの」として対称的だったアルフレードとアダの関係は、互いに〈悪を正視しない悪〉によってかろうじて維持されていたが、自分たち同様「持てる者」の側だった未亡人が殺害されるに及び破局を迎える。そして来る1945年4月25日。イタリア解放で権力を失い、逃げまどうファシストを殺害したのは新たな権力者、すなわち農民と社会主義者だった。牧歌的な田舎に生きる人々でさえ、押しては返すファシズムとコミュニズムの荒波に翻弄されるうちに、心の中に巣くっている〈暴力の種〉を発芽させてしまう。この映画で描かれていたように、積極的であれ消極的であれ、周囲の暴力を許し、またその後に続く者が大勢いたからこそ、絶対的な「黒」や「赤」のイデオロギーに染まった〈悪の華〉が開花し、咲き誇ったのだろう。時代は変わっても、醜悪で甘い〈暴力の香り〉はストラーロの美しい映像から匂ってくる。

(評価:★5)

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