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[コメント] 半落ち(2004/日)

映画として構成と論点がまとまり切っていないものの、アルツハイマーについての作者の訴えは感じる。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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アルツハイマーの妻を殺した。これだけで十分訴えるものがあると思う。しかし、

主人公がどうして死を選ばなかったのか? 2日間何をしていたのか?

作品としてこれらの謎を解き明かすことに重点を置いており、妻の殺害そのものの背景は、警察当局同士のやりとり、マスコミ、白血病、弁護士・裁判官の良心などと同列に描かれているので、論点がぼけてしまったようだ。とりわけ、主人公が警察幹部であること、警察当局の疑惑、当局とマスコミのやり取りが、このテーマにさほどの必然性があると思えないし、骨髄ドナーもアルツハイマーとは本来何の関係のない問題である。

一番気になるのは、アルツハイマーの妻を殺害した主人公は自殺すべき、との観点が、主人公を含めたほとんど全ての登場人物(裁判官ですら)の共通認識であった点。守っている人がいるかどうかの前に、論理の飛躍ともとれ、極めて説明不足だと思う。このような状況で、心中を前提としていいものかどうか? その部分もしっかりと問題提起してほしかった。

また、アルツハイマーの妻についても、壊れていく自分がいやで、残された夫のことを思うのであれば、その夫に殺害を頼むのでなく、自殺という選択肢も頭をよぎるのではないでしょうか? もし本作が「死」でなく「生」をテーマにしているのであれば、先に述べた主人公の「自殺(=心中)」を前提とした作風に相矛盾することにもなる。 ラストの骨髄を提供した少年の存在が「生」を、生死を彷徨った連続婦女暴行犯の死が「死」を象徴しているようではありますが、これらはアルツハイマー問題のすり替えともとれ、明確な解は導き出されない。

つまるところ、裁判官の「魂の死は人の死、そんな裁定は、あなた(梶)も私も出来ない」との発言と、その後の重い判決が本作の結論なのかもしれませんが、 今考えるとこの発言は、本人(妻)のみがその裁定を行えることを仄めかしているようにもとれ、アルツハイマー患者と自殺を描かなかった理由が判った気がする。 ”それ”は描いてはいけない、という事でしょう。このように考えているうちに、裁判官の妻がアルツハイマーの父のことを「死んでくれたらいいのに、と思ったことがある」と涙目に洩らしたシーンがふと私の頭に浮かんだ。

以上、いろいろ私見を書いたものの、難しいアルツハイマー問題を提起した作品として、作者の訴えは随所に感じるし、考えさせられた作品でした。

(評価:★4)

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