若者役者陣では、まず、リーダー（田所豊）を演じた大森南朋の好演が個人的には際立っていると思った。黍刈隊メンバーを迎え、黍刈の指導をする演技は、実際に経験がある人としか思えないほど堂々としたものだった。終盤、キャッチボールで見せる負傷した足の演技もうまい。

それから金子さやか。マイペースな曲者女が、汗を掻いて、いい若者に変わっていく様と笑顔の爽快さは、観ていて気持ちが良かった。今後注目したい女優である。主演の香里奈は終始爽やかで好印象ではあるものの、演技の面では特筆すべき点はなかったのが残念。 そんな香里奈は、私が鑑賞した劇場の舞台挨拶で「もっと今後は癖のある役を演じたい」と言っていたのが印象的。

それから、北村三郎と吉田妙子。沖縄のベテラン役者の層の厚さにはホント驚き入る。

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ストーリーとしては、田所のリーダーシップを偉ぶっていると捉えるメンバーがいることに驚きを感じたが、若者がこういう態度に出ることは間々あるので、彼らの世代を印象付けて良かったと思う。　「あなたが一番普通の生活から逃げている」と、田所が西村に責められたところで沈黙するあたり、それが図星だったと思われるが、私の感覚では、田所こそ、日本基準ではない、ワールドワイドの「普通」の生活を送っている人物だと思った。田所が全国の収穫行脚の自慢話しをしたのは、彼の人間性を小さくしたようで残念だが、それも日本人像としてリアルと言えばリアルではある。　そして、あの花火はナイスタイミング。

一番グッと来たのは、西村が戻ってきた時、５００円で乗り換えた西村の食事が食卓に残されていたこと。涙をこらえる西村同様、私も涙をこらえた。　このエピソードをはじめ、メンバーそれぞれのエピソードをくどくならない程度にばら撒いた点が、我々鑑賞者を感傷的にさせることなく、農作業のおわりまで惹き付け得たポイントだろう。結局、金子さやかと香里奈はじめ抱える悩みが判らずじまいだった若者もいるが、皆が皆、悩みから逃れるように来ているほうが不自然なので、それでよかったと思う。

ラストは、翌年の田所が同じように新しい黍刈隊を迎える音声と風景画で終わる。田所に反感した西村が翌年のリーダーを引き継ぐオチでも悪くないと思ったが、やはりこのほうがいい。いいラストでしたね。

監督の意図したのは、未来やワールドワイドに羽ばたく若者に向けたメッセージではなく、今現在、身近なことに悩みを抱える若者への応援だったのだろう。明日の展望より、今日の頑張り、ですね。

「若者よ！　深呼吸して、汗掻いて、うまい飯食って、ぐっすり寝よう！　それからゆっくり考えよう！」

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以下、覚え書き

劇中登場する居酒屋は、宮古島を一周するウルトラマラソン大会で私が訪れた時の記憶からすると、宮古島と一本道でつながる来間島に実在する居酒屋だったと思われる（あそこは８８ｋｍ地点の給水所になっていたので印象に残っている）。店長は内地（沖縄県外）出身の人だったはず。本作では昼間は製糖工場で働く地元の兄ちゃんが店長という設定になっていたのは、ある意味、意味深い。

撮影の舞台となった宮古島は、かなり栄えていて、決して医者が週に１回しか来ないような過疎地ではない（映画館が何年か前になくなったのが残念と言えば残念）。　ビジネス事情は、かなりシビアで、観光施設、ダイビングショップ、バーなど（儲かる）観光・商業的な職種は内地出身者が成功する例が多く、地元の人は漁業や農業など昔ながらの手に汗握る職に従事することが多い。このような背景のもと、宮古島の漁業組合とダイビング組合の縄張り争いがついこないだまで繰り広げられていたのも有名である。

本作は意図的にこのような事情を排除したうえで、宮古島と沖永良部島で撮影しながらも、商業地化されていない架空の離島を創作したのだろうが、それがストーリーを複雑にさせることなく、好感の持てる仕上がりとした大きな要因の一つであろう。