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[コメント] 宇宙戦争(2005/米)

大量殺戮シーンは壮絶だが、トライポッドの映像に偏りすぎな感もある。パニックは直接見るよりも、読んだり聞いたりしたことに起因するほうが多いと思う。想像は膨らむ一方だから。/レビューは原作のネタバレありです。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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原作のパニックに至るまでの描写は、号外などで目にするものの「それ」を実際に目にするまで本気にしようとしない暢気さ、無関心さと言った人間性の愚かさを強調したものだったが、その人間性は皮肉なことにも舞台をニューヨークに置き換えたラジオドラマが1938年アメリカで放送され、現実のニュースと勘違いした人々が大パニックになったという有名な事件により反証された。事前に「フィクション」であると何度もラジオ放送で注意したにもかかわらず、パニックになってしまったのだ。このような人々のパニック心理はH・G・ウェルズも予想できないものだった。

このラジオドラマの製作・監督は『市民ケーン』製作前のオーソン・ウェルズ。2人のウェルズの(因縁の)関係については原作「宇宙戦争」のアーサー・C・クラークによる序文として面白く記されている。 原作とラジオドラマで舞台となったロンドンとニューヨークが、近年テロリズムの標的とされたのは、単なる偶然では片付けられない予見的なものがあると思う。

そこで本作。まず印象的なのは情報がほとんど無い点である。何が起こっているかは自分で確認するしかない。 原作では、少なくとも天体観測愛好家の主人公は何かが火星から地球に向って飛んで来ることを予め「知っていた」し、限られた情報ではあるもののそれを分析しながら行動できた。その結果、絶望を乗り越え、宇宙人の狩猟の対象者として野うさぎのような穴蔵生活をする諦めの境地に至る。

本作の人々はパニックに陥るものの、情報不足により絶望には至らない。だから、逃げる、隠れる、戦う・・・と必死になることができる。この辺り、原作よりもオーソン・ウェルズのパニック現象のほうを参考にしていると思われる。ただ、心理描写よりも行動の描写のほうが多いところに物足りなさが残る。

ティム・ロビンス演じる人物は、原作ではパニックのあまり気が狂ってしまった牧師補と、火星人への反乱を妄想する(トライポッドを乗っ取る妄想までしていた)大言壮語な兵士の2人の人物からなっている。 主人公が火星人から身を守る為に殺めたのは牧師補のほう。 本作のティム・ロビンスが、牧師でも兵士でもなく「一般市民」になっているのは、キリスト教大国、そして軍事大国アメリカから考えると少々ずるいし、主人公自身の為でなく子供の為に人殺しをする、との設定もずるい。この意味では、人間の本質を原作のほうが大胆に描いていたと思う。

以上のように、原作とは少なからず違った要素を持っている。 地球(細菌)が守ってくれたというエンディングは突拍子もないように感じられるが、これは原作の最も言いたい普遍なテーマであって、この部分までも現代的にアレンジしてしまっては、宇宙人による殺戮のアイデアを踏襲しただけ(ちなみに原作では毒ガスによる大量殺戮も行われる)で、もはや全くの別物になってしまうといっても過言ではないだろう。 何十年も続いた地球環境汚染が宇宙人侵略を許してしまったという、別なエンディングならありかもしれないが。。。

要はトライポッドが何百万年も前から地中に「埋められていた」と言う、最近のゴジラ映画と似通った設定を追加したことが余計なんだと思う。これさえなければ、宇宙人が細菌の存在を知らなかったことに矛盾はなくなるだろう。

本作のように、地球固有のものが人間を守ってくれた、というエンディングのSFパニック作品は実は少なくない。例を挙げるとネタバレになってしまうので避けるが、数年前の某有名監督作品でも、青い地球の象徴たる水が侵略者から守ってくれましたよね。その時はこんな感想は持たなかったけれど、そこにメッセージ性をどれほど持たせるかどうかはそれぞれの監督の感性の違いなのだろう。

あっけない幕切れと言う意味では、原作も本作も同じ。そこに違和感を与え、気づかせることこそが作者の狙いなのかもしれない。

(評価:★3)

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